価格設定・需要予測・地域データを活かしたレベニューマネジメントの可能性|宿泊業のIT活用事例集を読み解く【IT活用事例集分析 第1回】

IT活用事例集分析
PriceAnalyzer 観光マーケティング

2026/09/09

観光庁「宿泊業におけるIT活用ハンドブック」「IT活用事例集」をもとに、宿泊施設のIT活用を分析。PMS・RMS・需要予測・価格設定・DMOの地域データ活用事例を整理し、レベニューマネジメントへの活用可能性を解説します。

観光庁 令和7年度「宿泊業におけるIT活用を通じた生産性向上・経営高度化の実態把握に係る調査事業」
「IT活用ハンドブック」と「IT活用事例集」をもとに考察

はじめに

観光庁から、宿泊施設のIT活用を考えるうえで参考になる「IT活用ハンドブック」と「IT活用事例集」が公開されています。

事業名令和7年度「宿泊業におけるIT活用を通じた生産性向上・経営高度化の実態把握に係る調査事業
受託事業者NTTドコモビジネス株式会社
URL観光庁の公開資料は下記URLより確認できます。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics06_00054.html

事例集では、IT活用に取り組む宿泊施設11件に加え、豊岡DMOと箱根DMOの観光地事例も取り上げられています。PMS、サイトコントローラー、SNS、CRM、RMS、生成AIなど、扱われているテーマは幅広く、宿泊施設が自施設の課題に照らして参考にしやすい内容になっています。

ただし、これらはIT活用に取り組む宿泊施設・観光地へのインタビュー等をもとにした事例で、全国の宿泊施設を対象とする調査ではありません。

「自施設に近い課題があるか」「応用できる考え方があるか」という視点で読むと、自施設への取り入れ方を検討しやすくなります。

この記事では、2つの資料を「省力化」と「収益拡大」の視点から整理します。そのうえで、価格判断に関わる取組と、豊岡DMO・箱根DMOによる地域データ基盤の活用を取り上げ、観光庁資料の記述と当社の分析を分けて示します。

「省力化」と「収益拡大」という2つの軸で分類

ハンドブックでは、IT活用の目的を「省力化」と「収益拡大」の2つに整理しています。

省力化の対象としては、予約デスク、フロント、食事の準備・配膳、バックオフィス、清掃の5つの業務が挙げられています。

収益拡大については、客室販売数を増やす取組と、客室単価を高める取組に分けて考えられています。客室販売数に関しては、認知数、関心率、成約率、リピート数といった指標が関係します。

なお、この分類は、IT活用の目的や効果を整理するための見方です。宿泊施設がこの順番でツールを導入すべきという意味ではなく、事例集に出てこない取組が各施設で行われていない、という意味でもありません。

省力化:IT活用による取組内容

省力化の効果や導入の適否は、業務によって異なります。下表では、ハンドブックの要点と事例集の主な取組を業務別に整理します。

※表中の優先度は、ハンドブックが公式に順位付けしたものではありません。資料本文の記述をもとに、当社が相対的に整理したものです。

業務分類優先度※取組内容施設例
予約デスク業務外部とのデータのやり取りが多く一定程度の稼働が生じる業務のため、比較的IT活用の費用対効果が高い。お宿玉樹(PMS・サイトコントローラー連携)、城崎温泉但馬屋、ホテルフォーシーズン徳島(紙台帳からPMSへ移行)
バックオフィス業務宿泊業に限らず他業種でも共通する業務が存在しているため、省力化手法は汎用化されていることが多い。また、宿泊客と対面しない業務が多いため、サービス品質への影響を過度に心配せずITを導入しやすい。陽だまり一の湯(マニュアル電子化・週次コントロール表)、しこつ湖鶴雅別荘碧の座(RPAによるワインセラー管理・会計業務)
フロント業務自動化・無人化できた場合の省力化効果は大きい。一方で、対面サービスそのものに体験価値を置く施設では、ITツールによる代替には限界がある。お宿玉樹(リモートロック・テレビ電話チェックイン)、寛ぎの諏訪の湯宿萃sui-諏訪湖(多言語コンシェルジュ)
食事の準備・配膳業務宿泊客からの注文受付や注文管理との親和性が高い。一方で、対面サービスそのものを価値として提供する施設では、ITによる代替範囲に限界がある。和心亭豊月(厨房カメラでフロアと情報共有)、月の栖熱海聚楽ホテル(客室タブレットによる注文受付)、城崎温泉但馬屋(PMS活用による情報共有・食材ロス削減)
清掃業務施設規模による施設の広さや客室数に比例して業務量が増加するため、大規模施設ほど省力化システム導入の費用対効果が高い。独立した清掃業務事例は掲載なし。お宿玉樹(動画マニュアルによる清掃手順共有)、和心亭豊月(混雑可視化による清掃タイミング判断支援)

収益拡大(認知・関心・成約・リピート):IT活用による取組内容

収益拡大に関わるIT活用のうち、まず認知・関心・成約・リピートに関する施策を整理します。

※表中の優先度は、一次資料による公式な順位付けではなく、当社が資料本文をもとに相対的に整理したものです。

指標・手法優先度※取組内容施設例
認知数Googleビジネスプロフィール[KM2.1]の情報登録・充実、口コミ投稿用QRコードの設置が例示されています。事例集に掲載された施設の助言では、Googleビジネスプロフィールは無料で始められると説明されています。伊良湖温泉魚と貝のうまい宿玉川(SNS・OTAでの新規客層開拓)、城崎温泉但馬屋(OTAへの在庫拡大)、お宿玉樹・寛ぎの諏訪の湯宿萃sui-諏訪湖(Googleビジネスプロフィール)
関心率自施設ならではの魅力の整理と、ターゲット層に向けたSNS・ウェブサイトでの発信の役割分担が挙げられています。寛ぎの諏訪の湯宿萃sui-諏訪湖(ウェブサイトを自施設のブランドのメインストーリーを集約する情報発信の主軸として活用)
成約率予約導線の整備(ウェブサイトへの予約機能導入等)、口コミへの返信が施策として挙げられています。リゾートホテルモアナコースト(予約機能や直販導線の整備)
リピート数旅ナカ・旅アトでの接点維持、PMSでの顧客情報蓄積、LINE・メルマガ配信、会員制度などが例示されています。和心亭豊月(PMSによる顧客情報管理)

収益拡大の各指標は、実際の事例では複数の施策と結びついています。

同じSNSであっても、施設によって役割は少しずつ異なります。

伊良湖温泉 魚と貝のうまい宿 玉川

SNSをOTAやウェブサイトとあわせて活用し、新たな観光客層への認知を広げる接点としています。

リゾートホテル モアナコースト

SNSの運用目的を「短期的な予約獲得」ではなく、「施設の魅力を訴求し、認知を広げること」へと方針転換しています。

寛ぎの諏訪の湯宿 萃sui-諏訪湖

ウェブサイトを自施設のブランドの「メインストーリー」を集約する情報発信の主軸とし、SNSは「認知の入口として、ブランドやこだわりを補完するアナザーストーリーを発信する」場と位置づけています。

但馬屋

OTAへの在庫掲載が認知拡大の手段として用いられる一方、ハンドブックでは成約率向上の施策として、ウェブサイトへの予約機能導入やの発信の継続といった、自社発信の導線整備が挙げられています。

これらの事例では、SNSやウェブサイトの役割は一様ではありません。新規顧客との接点づくり、ブランドの世界観の発信など、客層や立地、競合環境に応じて目的が異なります。

収益拡大(平均客室単価):IT活用による取組内容

平均客室単価を高めるには、価格判断に用いる情報が重要です。ハンドブックは3つの手法を示しており、事例集では、顧客反応、競合情報、自施設の実績・予約状況、需要予測などに基づく価格調整が確認できます。

なお、直販限定価格(モアナコースト等)や追加商品による単価向上(びわ湖松の浦別邸)、お得意様向けの価格方針(お宿玉樹)など、客室価格そのものの算定ロジックとは別の単価施策も確認できます。

※ハンドブックは3手法の優先順位を示していないため、本表の優先度では評価対象外として「-」としています。

手法優先度※IT活用の費用対効果取組例
① 宿泊客の反応を見ながら価格を設定するアンケートや口コミで価格満足度を確認し、原価動向とあわせて調整する伊良湖温泉魚と貝のうまい宿玉川
② 競合と比較しながら価格を設定する周辺の同規模・同価格帯の宿泊施設をベンチマークとして設定し、OTAで定期的に確認するハンドブックP19の該当施設欄は「-」(事例なし)。
ただし事例集本文の城崎温泉但馬屋には「同規模施設と比較した価格設定を日々行えるように」という記述があり、本記事ではこれを②に該当する記述として独自に扱っています。
③ 販売需要を予測して価格を設定する(応用)過去実績や予約状況等から需要を予測して価格を調整する。RMSによる自動算出もその一例。陽だまり一の湯(RMSを実証導入)。
※城崎温泉但馬屋もハンドブックP19の該当事例として挙げられていますが、事例集本文では人がPMSレポート等を参考に価格調整する運用です。

この表は、ハンドブックP19の分類と事例集本文を照合し、本文の記述を優先して本記事で整理したものです。両者が一対一で対応しない箇所があります。

特に城崎温泉但馬屋については、RMSによる価格自動算出ではなく、PMSのレポートや周辺施設の価格・予約状況を参考に、人が価格を調整している事例として扱います。

競合比較に関連する事例:但馬屋と豊岡DMO

ハンドブックP19では、②「競合と比較しながら価格を設定する」の該当施設欄は「-」となっており、公式の事例は挙げられていません。

本記事では、但馬屋について事例集本文に、周辺の同規模施設の価格や予約状況を参考に価格を調整する記述があるため、②「競合と比較しながら価格を設定する」に関連する事例として整理します。

ただ但馬屋と豊岡DMOでは、比較情報の使い方が異なります。

地域の需要とお客様の反応から適切な価格を設定しましょう
⑤平均客室単価を高める
価格の設定においては、ターゲットとなるお客様が納得する価格の範囲を超えないこと、需要と比べて低すぎない価格を設定することがポイントとなります。このようなリスクを防ぐため、宿泊客の反応を確認し、ベンチマークとなる施設(競合)と比較することで、最適な価格を調整することが重要です。
応用として、更に収益を拡大させたい場合、過去の実績データをPMSに蓄積している施設では、ダイナミックプライシングによる自動的な価格設定の実施も考えられます。
地域の需要とお客様の反応から適切な価格を設定しましょう 【宿泊施設のためのIT活用ハンドブック P19】

但馬屋は、周辺施設の情報を見ながら、自館で価格を判断する例です。一方、豊岡DMOは、地域内の複数施設からデータを集め、地域全体の稼働率・客単価・需要予測として加工し、データを提供した施設に共有する例です。

同じ「比較情報を価格判断に使う」といっても、個別施設が自ら情報を見て判断する方法と、地域組織がデータ基盤を整えて共有する方法があります。

豊岡DMOの取組

豊岡DMOは、城崎温泉の宿泊施設のPMSから自動で予約データを収集し、地域全体の稼働率・客単価・需要予測を可視化するダッシュボード「豊岡観光DX基盤」を構築しています。事例集では、その効果として「同規模・同価格帯の施設平均との比較が可能となり、根拠をもって価格を設定できるようになりました」と説明されています。

なお、ダッシュボードを閲覧できるのは「データを提供した宿泊施設」とされています。共通PMSを導入したのは23施設とありますが、閲覧可能な施設数と一致しているかは公開資料から確認できません。

参考:豊岡DMOのデータ活用は価格判断だけにとどまらない

豊岡DMOの取組は、宿泊施設向けのダッシュボードだけにとどまりません。

たとえば、PMS製品をCRMと連携させ、約7,000件のメールリストへ地域の魅力やイベントを発信しています。事例集では、平均開封率31〜36%を実現していると説明されています。

また、地域の事業者に対してLINEで平日毎日、2週間先までの入込予測・稼働率予測を配信し、月1回のオンラインレポート解説会も開催しています。

この配信には「桜シーズンを見据え、早めの部屋出し及び価格設定を行うことで、早期予約を獲得できます」という、価格判断に関わる示唆が含まれています。

宿泊施設の価格判断にも役立つ一方、飲食・物産事業者の仕入れ量調整や、大雪・地震時のキャンセル率速報にも使われています。価格判断専用ではなく、地域全体の運営を支える仕組みとして利用されています。

需要予測の誤差について、事例集は、初年度の5〜10%からロジック修正後には3%前後まで改善したと説明しています。一方で、「需要予測結果はまだ完全であるとは言えません」とも記載しています。

公開直後のダッシュボードでは、表示される数値と旅館側の実感に大きな乖離があったとされています。その後、DMOのメンバーが宿泊施設に足を運び、2か月に1回程度の意見交換を重ねながら、計算ロジックを修正してきました。需要予測の精度は、システムを導入して終わりではなく、宿泊施設との継続的な対話の中で高められてきたといえます。

箱根DMOの取組

箱根DMOは、宿泊統計・アンケート・交通データ等を統合し、「箱根DMO観光診断書」としてダッシュボード化しています。町内にQRコードを設置して来訪者アンケートを収集し、年間4,221件の回答を得ています。

また、渋滞予測・飲食店混雑状況・駐車場満空情報等をリアルタイムに表示する「箱根観光デジタルマップ」も運用しています。事例集では、「デジタルマップ利用者が当初約1万人から2026年3月初旬時点で約21,000人に倍増しました」と説明されています。

事業者向けの情報提供としては、「HAKONE DMO Touch!」というサービスがあります。これは、LINEを通じて日別の予測人数・外国人比率・客層属性を配信する仕組みです。

この配信は、宿泊事業者だけでなく飲食店のシフト編成やバス会社の臨時便運行判断にも活用されており、豊岡DMOと同様、価格判断専用ではなく、地域全体のオペレーション改善を目的とした多目的な仕組みです。

地域の情報を得る方法は、DMOだけではない

豊岡DMOと箱根DMOの事例は、個別施設だけでは把握しにくい地域単位の情報を、地域側が集約・可視化している点で共通しています。ただし、その内容や価格判断との距離感は地域によって異なります。たとえば、箱根の事例集本文からは、宿泊価格や客室在庫を継続的に把握している取組までは確認できません。

ハンドブックでは、宿泊施設の経営やIT活用の相談先として、OTAの担当者、コンサルタント、IT・ウェブ制作会社、同業者、業界団体、金融機関、商工会議所、自治体・観光協会・DMOなどが挙げられています。

特にOTAの担当者については、「日常的な接点があり、価格設定や露出、予約数等経営に直結する事項について、同規模施設の事例を踏まえた具体的な助言を追加コストなく得られる」と明記されています。

これは、宿泊価格や客室在庫のような競合比較を考える際にも関係する相談先と読み取れます。地域にDMOによるデータ基盤が整っていない場合でも、OTA上でベンチマーク施設の価格やプランを確認したり、OTA担当者等へ相談したりする方法が、ハンドブックには示されています。

当社の分析:Forward Revenue Management(フォワード・レベニューマネジメント)という視点

ここからは、価格判断に使われる情報に着目し、観光庁資料の事例を当社の視点で整理します。

豊岡DMOは地域全体の稼働率・客単価・需要予測を、箱根DMOは来訪者数・外国人比率・客層属性などの予測情報を提供しています。いずれも、個別施設では把握しにくい地域の動きを事業者の判断材料にする取組です。こうした地域単位の情報は、将来の需要を見越して価格や販売計画を考える際の判断材料のひとつになります。

但馬屋のように自施設が周辺施設の情報を参考に価格を判断する例と、豊岡DMOのように地域側が複数施設のデータを集約・可視化して提供する例は、比較情報の使い方が異なります。箱根DMOの事例も含めると、地域データ基盤は、価格判断だけでなく、地域全体のオペレーション改善にも使われていることが読み取れます。

特に豊岡DMOの事例では、地域データの共有が、宿泊施設の価格判断に直接つながっている点が注目されます。事例集では、その結果として「同規模・同価格帯施設との比較が可能となり、根拠をもって価格設定できるようになった」と説明されています。

地域で同様の基盤が整備されていない場合は、市場データを継続的に把握し、自施設の予約実績とあわせて販売計画を組み立てるという考え方もあります。当社は、市場動向や需要を把握し、販売計画や価格判断に反映する一連の考え方をForward Revenue Management(フォワード・レベニューマネジメント)と呼んでいます。価格変更だけでなく、その前段階の分析と計画を含む点が特徴です。ハンドブックの「販売需要を予測して価格を設定する」という考え方にも通じます。

顧客反応、競合比較、需要予測という3つの視点は、観光庁資料の中でこの形に整理されているわけではありません。ただ、事例を読み比べると、宿泊施設の価格判断は、こうした複数の情報を組み合わせながら行われていることが見えてきます。

観光庁の事例は、ITツールの導入効果だけでなく、価格判断の過程も示しています。レベニューマネジメントでは、需要・競合・自施設の状況を継続的に把握し、販売計画や価格に反映することが重要です。

PriceAnalyzerのご紹介

価格判断に必要な情報を継続的に把握するには、地域データだけでなく、自施設の実績や周辺市場の動きを日々確認できる仕組みも重要です。当社では、宿泊施設の販売計画や価格判断を支援するレベニューマネジメントシステムとして「PriceAnalyzer」を提供しています。

PriceAnalyzerとForward Revenue Managementの詳細は、以下のページで紹介しています。

Contact

お問い合わせ・資料請求

各種サービスについてのご相談
その他お問い合わせはこちら

観光向けサービス・調査サービスの
資料ダウンロードはこちら