AI時代の業務設計(AIを活用してPDCAを回す方法)【第7回AI時代の資料作成】
2026/09/03
型を資産化しても、品質チェックはなくならない|「型の資産化」から「業務フローの資産化」へ
次の営業資料を作るとき、また6回分の作業をやるのか
これまでの6回の記事は、
- AIや人間の役割分担を整理し、
- CIをテンプレートに反映し、
- 情報構造を整備し、
- AIに指示書を作らせ、
- 人が仕上げ、
- 複数のAIでチェックすることで
「MarketAnalyzer」という1つの製品の営業資料を、AIと人でどう作るかを紹介しました。「次の営業資料を作るとき、また同じ作業を繰り返すのか?」この問いについて、今回は実際に検証いたします。
Plan:再利用できる業務と、毎回確認すべき業務を分ける
第5回では、複数のAIに同じ指示書を読ませ、指摘を重ね合わせてチェックリスト(料金プラン、画面イメージ、導入事例、利用イメージ、取得可能データ一覧、会社概要、CTAなどが含まれているか)を作りました。このチェックリストをもとにAIに再利用できる形式で整理させ、Markdown形式のチェックリストとして保存します。
(AIに「次回再利用できるようMarkdown形式で保存して」と指示するだけで保存できます)
「PowerPointのテンプレート」は「どう見せるか」を標準化し、「Markdown」形式のチェックリストは「何を書くべきか」を標準化しています。この2つを組み合わせることで、営業資料作成手順を標準化することができ、前回と同様の作業が再現できるようになります。
PowerPointのテンプレート(46種類)
見た目・デザインの型。配色・フォント・レイアウトを、CIに沿って統一する。
「Markdown」形式のチェックリスト
構成・中身の型。営業資料には何を含めるべきかという、内容面の基準。※1 ※2
※1 第5回のレビュー1で課題となった「料金プラン・画面イメージ・導入事例・利用イメージ・取得可能データ一覧・会社概要・CTA」を含めることと記載しています。
※2「Markdown」形式はテキスト形式のファイルのため人が読むこともできますが、AI向けの指示書となります。
Do:チェックリストを参照してAIが資料を作成。既知の抜けは防げたが、表紙の抜け漏れがあった
できあがった12枚分の資料を確認したところ、チェックリストの必須項目に抜けはありませんでした。
但し、1枚目のコンセプトシートがそのまま表紙になっていて、一般的な表紙が抜け落ちていました。これは、AIではなく、人の目によって指摘されています。
表紙やページ区切りは、PowerPointのテンプレートライブラリに定義されていなかった『型』でした。また、会社概要についても資料ごとに新規作成する必要はなく、固定文としてライブラリに登録しておくべき要素でした。この2点については、次回ライブラリを更新する際に追加します。

Check:複数AIに、もう一度読ませてみる
チェックリストで必須項目の抜けを確認した12枚を、改めてChatGPT・Gemini・Copilot(それぞれ新規セッション)に読ませ、抜け漏れを確認しました。第5回のレビュー1で実施した際と同じ観点のプロンプトです。
チェックリストは機能しており、チェックリストの項目(料金・画面イメージ・導入事例など)への指摘は、3つのAIともありません。
元情報の圧縮・情報密度の低下
チェックリストは「ページがあるかどうか」しか見ておらず、「そのページに元の情報がどれだけ残っているか」までは保証していません。そのため、Webページの情報を書き起こす際に内容そのものが圧縮され、情報密度が低下していると複数の指摘が返ってきました。
| 圧縮されていた内容 | ChatGPT | Gemini | Copilot | 計 |
|---|---|---|---|---|
| 料金の具体性(Lite/Proの価格帯) | ○ | ○ | ○ | 3 |
| データ品質・実績への言及 | ○ | ○ | ○ | 3 |
| 導入スピード・サポート体制 | ○ | ○ | ○ | 3 |
| イベント・海外祝日情報 | ○ | ○ | ○ | 3 |
| 自動値決めツールとの違い・競合比較 | ○ | △ | ○ | 2〜3 |
| 4つの限界(構造化された課題提起) | ○ | - | ○ | 2 |
| 5つの顧客役割の粒度 | ○ | - | ○ | 2 |
| 1画面5つの分析機能の具体名 | ○ | ○ | - | 2 |
| マクロ統計の具体項目 | ○ | - | ○ | 2 |
| Excel/外部AI連携の流れ | ○ | - | ○ | 2 |
| 無料トライアル | ○ | - | - | 1 |
| Q&A(よくあるご質問) | - | - | ○ | 1 |
特に「料金プランの具体性」については重要な見落としで、チェックリスト上は「料金プラン」の項目として○でしたが、実際には個別見積りとしか書いておらず、元ページにあったLite(年間48,000円)・Pro(年間120,000円)という、お客様の検討のハードルを下げる価格帯が抜け落ちていました。結果として項目の有無を確認するチェックリストでは、中身の完全性までは検証できていませんでした。
3つのAIで指摘事項が異なる
上記の3つのAIの比較表を見ていただくと、3つのAI一致の項目と、1つのAIだけの項目が、はっきり分かれています。
料金の具体性・実績・導入スピード・イベント情報は、どのAIでも指摘している一方、無料トライアルはChatGPTだけ、Q&Aの必要性はCopilotだけが指摘しています。
第5回のときも、複数のAIで共通する指摘と、AIによって異なる指摘の両方がありました。今回も、同じように“共通して出る指摘”と“AIごとに違う指摘”に分かれました。今回も、見るポイントは前回と違っていましたが、AIによって指摘の出方はかなり違いました。
Act:型は資産化できたが、中身のチェックは省略できなかった
今回の実験では、営業資料作成の中にも次回そのまま使える部分と、毎回ちゃんと見直すべき部分があることが分かりました。
今回やってみて、ページの種類の抜けはチェックリストでかなり防げました。一方で、元ページの情報がどれだけ残っているか、表紙のような型そのものが足りているかは、別の確認が必要でした。
| 型(ページカテゴリーの抜け) | → | チェックリストとして資産化できた |
| 会社概要のように、中身ごと固定できる要素 | → | テンプレート文として使い回せた |
| 元ページの情報密度 | → | 今回の検証では、複数AIによる確認が有効であった |
| 表紙のような、型そのものの不足 | → | 今回の検証では、人の目でしか気づけなかった |
2026年8月時点の営業資料作成フロー
1
元ページ(製品紹介ページ)を、AIが解析する。課題・差別化・導入効果・対象顧客を抽出する
2
「.md」ファイルのチェックリストと照合し、含めるべきページを判断する。中身が固定の項目(会社概要)はテンプレート文をそのまま使う
3
PowerPointの 46種類のテンプレートから、ページごとに型を選び、枠単位まで具体化した指示書を作成する
4
PowerPoint Copilotで、指示書通りに資料を生成する
5
AIに、抜け漏れと内容の圧縮を確認するための共通チェック用プロンプトを生成させる(資料作成元となるURLと指示書全文を組み込み、複数AIに同じ条件で投げられる形にする)
6
生成したプロンプトを、複数のAI(ChatGPT・Gemini・Copilot、いずれも新規セッション)にそれぞれ投げ、指摘を集める
7
各AIの回答をClaudeに戻し、重複・差分を整理した比較表(星取表)を作らせ、人が判断できるように可視化する
8
比較表を踏まえて、人が中身を確認・追記する
9
PowerPoint Copilotの「このプレゼンテーションのレビュー」「ブランドガイドラインとの整合性チェック」といったスキル機能(レビュー機能)を使い、完成した資料そのものを検査する
10
人が⑨の指摘を確認・修正し、最終判断して公開する
⑤・⑦は、実務上は①・③の指示書作成と地続きの作業です。同じAI(Claude)が、資料を作るための指示書、チェックのための質問文、そして各AIの回答を統合する比較表まで、一貫して作ることになります。ここを別工程として切り出しておくと、複数AIに同じ条件で確認させ、結果を漏れなく突き合わせられます。
少なくとも、料金プランや導入事例など、チェックリストに入れていた項目については抜けませんでした。一方で、内容圧縮のような細部の劣化は、今回の事例のようにまだ防ぎきれていません。資料の完成度は、ゼロから作っていた頃より高くなりましたが、今回の工程においてもAIだけで完全に仕上げることはできませんでした。
生成AIの性能はこれからも変わっていくので、今回のやり方も固定ではありません。
今回は防げなかった内容圧縮も、モデルや使い方が変われば、次は別の結果になる可能性があります。そのためこの業務フローは完成形ではなく、AIの進化に合わせて、今後も組み替えていくものだと考えています。
調査会社では、AI時代の品質をどう担保するか
複数の目でチェックするという発想は、目新しいものではありません。
調査会社では昔から、一人の担当者がアンケートの設問を設計し、別の担当者がそれを確認し、さらに別の目でチェックする、という複数人の体制で業務を行ってきました。
これは、チェックすべき視点が多岐にわたるため、一人の目だけでは、見落としが発生するという前提に立っているためです。
これはAIを使う場合も同じでした。1つのAIと1つのチェックリストだけでは、やはり見落としは残ります。実際、複数のAIに同じ条件で見せると、1つだけでは出てこなかった指摘も出てきました。そして人の目まで含めて、表紙のような型そのものの不足は、最後は人が見てすぐに気づきました。
AIを使うようになっても、「どの視点」で、何を確認するかを決めておかないと、品質は安定しないと感じました。以前は人だけで分担していた確認作業の一部を、今はAIにも任せられるようになった、という感覚に近いです。
シリーズ全体を振り返る
| 回 | 実際にやったこと | 今振り返ると |
|---|---|---|
| 第1回 | CIをテンプレートに反映 | 品質基準の定義 |
| 第2回 | 情報構造をテンプレート化 | 要件・型の整備 |
| 第3回 | AIに指示書を作らせ、資料を生成 | 処理の自動化 |
| 第4回 | 人が内容を確認・追加 | 人による品質保証 |
| 第5回 | 複数AIでチェック、AIがレビュー | 多段階の品質チェック設計 |
| 第6回 | AI・プログラム・人の役割を整理 | 業務プロセスとしての設計 |
| 第7回 | 資産を再利用して別資料を作成 | 資産化できた工程と、省略できなかった工程を分離 |
- チェックリストは、ページの型の抜けには効くが、1ページの中身の情報密度までは保証しない
- 会社概要のような中身ごと固定できる要素は、指示書を都度書かせず、テンプレート文として使い回せる
- 複数のAIに読ませると、一致する指摘と、AIごとに異なる指摘がはっきり分かれる
- 型そのものの不足(表紙とページ区切り)は、AIではなく人の目で気づいた
まとめ
今回のシリーズでは、当初、「AIで営業資料を作る方法」を探していました。実際にやってみると、AIを使うこと自体よりも、何を品質と見るか、どの情報を残すか、誰が最後に確認するかを決めておくことの方が重要でした。
AIを使っても、確認作業そのものがなくなるわけではありません。ただ、毎回見るべき項目の一部は、チェックリストやテンプレートとして残せるようになりました。そのため毎回ゼロから考える必要はなくなり、人が確認すべきポイントが以前より明確になりました。
AIを使うようになっても、確認の目をどう分けるかは残ります。むしろ、調査会社でやってきた複数人でチェックする方法は、引き続き使えると感じました。
今回紹介した仕組みは、専用のナレッジマネジメントシステムや高度なワークフロー製品を前提としておらず、PowerPointとMarkdownのチェックリスト、複数の生成AIを組み合わせるだけで、業務の標準化を進めるとともに、ページ構成上の抜け漏れを抑えることができました。
記事としては営業資料作成を題材にしていますが、資料作成を自動化しようとすると、結局、業務そのものを分解する必要がありました。AIに任せる工程、人が判断する工程、次回も使い回せる工程を分けていく中で、品質を落とさずに改善する手順が少しずつ見えてきました。
型を資産化できたことで、すべてを確認しなくてよくなったわけではありません。むしろ、型に任せられる部分と、人が毎回判断すべき部分が見えるようになりました。AI時代の標準化とは、確認をなくすことではなく、確認すべき場所を明確にすることなのかもしれません。
また将来的に、こうしたPDCAを回した業務フロー自体をAIに参照させたり、自動実行させたりすることで、さらに効率化できる可能性もあるのではないかと感じています。
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