顧客はカスタマージャーニーで動くのに、ホテルはツール単位の運用になりがち|施策と業務を可視化するホテルDX整理フレームワーク【IT活用事例集分析 第2回】

IT活用事例集分析
AI時代の業務再設計(BPR) マーケティング 観光マーケティング

2026/09/12

ホテルDX施策をSNS・OTA・LINEなどの顧客接点ごとに整理。カスタマージャーニー、担当部署、業務時間を可視化し、DX施策の優先順位を考えるためのフレームワークを紹介します。

SNS・OTA・LINEなどの顧客接点を、担当・業務時間・優先順位から整理する

前回記事のおさらい

前回の記事「価格設定・需要予測・地域データを活かしたレベニューマネジメントの可能性」では、観光庁の事例集をもとに、価格設定・需要予測・地域データ活用という観点から整理し、当社の考える「フォワード・レベニューマネジメント」という視点をご紹介しました。

ハンドブック内では、収益拡大の指標「平均客室単価」以外に「認知数」「関心率」「成約率」「リピート数」が紹介されています。そこで今回は、同じ資料の中でも「収益拡大(認知・関心・成約・リピート)」に関する内容に着目してみます。

事業名令和7年度「宿泊業におけるIT活用を通じた生産性向上・経営高度化の実態把握に係る調査事業
受託事業者NTTドコモビジネス株式会社
URL観光庁の公開資料は下記URLより確認できます。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics06_00054.html

事例集を読み比べると、宿泊施設の取り組みは単に「SNSを導入した」「OTAを活用した」という話ではなく、顧客接点ごとに役割を分けて設計されていることが分かります。

『萃sui-諏訪湖』では、自社Webサイトをブランドのメインストーリーを伝える場、SNSを認知の入口やアナザーストーリーを伝える場として使い分けています。

また『モアナコースト』では、SNSの運用目的を短期的な予約獲得から認知拡大へ切り替えています。さらに、メルマガとLINEをそれぞれ異なる役割で活用し、リピーター育成に取り組んでいます。

つまり、同じSNSやLINEであっても、施設によって期待している役割は異なります。

こうした事例を踏まえると、ホテル側では、顧客接点ごとの役割や運用負荷を把握することが重要になります。

本記事では、顧客接点ごとの役割、担当、業務時間を可視化し、ホテルDX施策の優先順位を考えるための整理フレームワークを紹介します。

ホテル運用はツール単位で分かれやすい

事例を整理すると、取り組みが進んでいる施設ほど、「ツール」そのものではなく「そのツールが担う役割」から施策を考えていることが分かります。

顧客は、「行き先を考える」「宿を探す」「比較する」「予約する」「宿泊する」「再訪する」といったカスタマージャーニーの中で、複数の接点を行き来しながら行動します。

一方でホテル側では、顧客の行動の流れとは別に、ツールや業務ごとに担当が分かれていることがあります。

  • SNS担当
  • Web担当
  • OTA担当
  • レベニュー担当
  • フロント
  • CRM担当

さらに近年は、PMS、CRM、レベニューマネジメント、SNS運用ツールなどが機能を拡張し、ツール同士の役割が重なり始めています。
SNS上に予約導線を設ける、LINEで顧客管理を行う、PMSからメッセージを配信するといった運用も可能です。

そのため、まず整理すべき観点は次の四つです。

  • 誰が何を担当しているのか
  • カスタマージャーニーのどの段階に対応しているのか
  • どこに業務時間を使っているのか
  • その業務が売上や顧客体験にどう寄与しているのか

これらを一度まとめて可視化することで、ツール単位では見えにくい課題を把握しやすくなります。

顧客体験起点型ホテルDXフレームワークのご紹介

一般的なカスタマージャーニーでは、顧客が予約前から宿泊後までにどのような行動をとり、どの接点で情報に触れるのかを整理します。

「顧客体験起点型ホテルDXフレームワーク」は、カスタマージャーニーをホテルの実務に置き換え、顧客行動、ホテルの役割、実際の業務、売上・顧客体験への寄与、利用できるチャネルを一つの表で整理するものです。

顧客体験起点型ホテルDXフレームワーク
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本表は観光庁「宿泊施設のためのIT活用事例集」「宿泊施設のためのIT活用ハンドブック」を参考に、
eSURVEYが顧客体験(カスタマージャーニー)の観点から再整理したものです。

# 顧客体験起点型ホテルDXフレームワーク(ver1.04)


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## 本表について

本表は観光庁「宿泊施設のためのIT活用事例集」「宿泊施設のためのIT活用ハンドブック」を参考に、eSURVEYが顧客体験(カスタマージャーニー)の観点から再整理したものです。

参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics06_00054.html

本表は、宿泊施設の顧客接点と業務を整理するための参考資料です。各チャネルの(○・△-)は、一般的な宿泊施設の業務における主な活用度をもとに整理しています。

例えば「予約の確定・受付」については、個別施設ではSNSやメール等を通じて直接予約を受け付けるケースもあります。しかし、本表では一般的な宿泊施設における利用形態を基準に評価を行っています。

そのため、すべての施設やサービス仕様を網羅するものではありません。実際の運用や導入判断にあたっては、自施設の状況に応じて変更してご利用ください。

なお、本表はホテル運営における顧客接点の整理を目的としたものであり、各チャネルの有効性や優劣を示すものではありません。

> 「〇△ー」は一般的な宿泊施設の業務における活用度を表しています。自施設にあわせて適宜修正ください。

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## チャネルの主導権・公開範囲

| 項目 | OTA | SNS | LINE | Googleマップ | SEM | 自社Webサイト<br>(SEO含む) | AI検索・生成AI※2 | 自社メール | DMO※6 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 主導権 | OTA | ホテル+SNS | ホテル | Google | ホテル+Google等 | ホテル | AI各社 | ホテル | DMO |
| 公開範囲 | Open | Open | Closed | Open | Closed | Open | Closed | Closed | Open |

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## カスタマージャーニー別 チャネル活用度

| カスタマージャーニー | ホテルの役割 | 実際の業務 | OTA | SNS | LINE | Googleマップ | SEM | 自社Web | AI検索・生成AI※2 | 自社メール | DMO※6 | 売上への寄与 | 顧客体験への寄与 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| エリア想起 | 地域を思い出してもらう | 情報発信 | - | △ | - | △ | △ | ○ | ○※2 | - | ○ | 〇 | - |
| 施設候補化 | 宿を知ってもらう | 情報発信(写真、動画、ブランド訴求) | ○ | ○ | - | ○ | ○ | ○ | ○※2 | - | △ | 〇 | - |
| 宿選び | 違いを理解してもらう | 情報発信(プラン説明、客室説明、比較情報、口コミ※3) | ○ | ○ | - | ○ | ○ | ○ | ○※2 | - | - | 〇 | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 口コミへのリプライ※3 | ○ | - | - | ○ | - | - | - | - | - | 〇 | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | コメントへのリプライ | - | ○ | - | - | - | - | - | - | - | - | 〇 |
| 成約 | 予約してもらう | 予約の確定・受付 ※7 | ○ | △ | △ | - | - | ○ | - | △ | - | 〇 | - |
| 宿泊中 | 満足度向上 | 館内案内 | - | △ | ○ | - | - | ○ | △※2 | - | - | - | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 周辺施設案内 | △ | △ | ○ | ○ | - | ○ | ○※2 | - | △ | - | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 会員登録 ※8 | △ | △ | ○ | - | - | ○ | - | △ | - | 〇 | - |
| 宿泊後 | 顧客理解 | 【お客様:アンケート回答】※9<br>アンケート収集(分析) | △ | △ | ○ | - | - | ○ | △※2 | △ | △ | - | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 【お客様:口コミ登録】※10<br>口コミへのリプライ | ○ | - | - | ○ | - | - | - | - | - | - | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | コメントへのリプライ | - | ○ | - | - | - | - | - | - | - | - | 〇 |
| 再訪 | 関係維持・再訪促進 | 情報発信 | △ | ○ | ○ | - | - | ○ | - | ○ | - | 〇 | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | ダイレクトコミュニケーション※4 | △ | △ | ○ | - | - | - | - | ○ | - | 〇 | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 会員施策(クーポン等)※5 | △ | △ | ○ | - | - | △ | - | ○ | - | 〇 | 〇 |
| |(同上) | |(同上) | 予約の確定・受付 | ○ | △ | △ | - | - | ○ | - | △ | - | 〇 | - |

※「|(同上)」は、直前の行と同じカスタマージャーニー/ホテルの役割の区分に属することを示します(原本ではセル結合により表示)。

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作成:株式会社eSURVEY | バージョン:ver1.04

※1.本表の星取は、各チャネルの一般的な利用形態をもとに、カスタマージャーニーとの関係を整理したものです。個別サービスの仕様や各施設の運用状況を網羅的に検証した結果ではありません。

※2.AI検索・生成AIは、宿泊施設を探す際の新しい情報探索チャネルとして重要性が高まると考えられるため、自社Webサイトとは分けて掲載しています。

本表では、観光地や宿泊施設の紹介、比較検討、周辺施設案内などで活用が広がる可能性を前提に整理しています。

※3.該当フェーズでホテル側の作業がほとんど発生しない、または対象外となるものを指します。

※4.本表では、ホテルと顧客が直接連絡できる状態になった後のコミュニケーションを指します。メールは予約時等にメールアドレスを取得した相手、LINEは友だち追加・フォロー等により接点を形成した相手を主な対象としています。

※5.会員施策は、クーポン等の発行機能だけでなく、顧客への到達手段を含めて評価しています。

※6.DMO欄は、一般的な観光地域づくり法人(DMO)の機能を想定して記載しています。豊岡DMOや箱根DMOのような先進的な取り組みでは、CRM、地域OTA、データ活用などを通じて、本表より広い領域を担う場合があります。

※7.予約の確定・受付は、申込情報を受け付け、内容を確定する機能を指します。Googleマップ、SEM、AI検索等は、予約導線として利用される場合があります。

本表では、主にどのチャネルで予約の確定・受付が行われるかを基準に評価しています。ただし、一部の宿泊施設では、SNSやメール等を通じて直接予約を受け付けるケースもあります。

※8.会員登録等は、顧客と継続的につながるための接点形成を指します。

ホテル会員制度、LINE友だち登録、メール登録、SNSフォロー等を含みます。取得できる顧客情報や活用範囲はチャネルによって異なるため、一般的な宿泊施設での主な使い方をもとに評価しています。

※9.アンケート回答は、ホテルが顧客満足度や要望把握を目的として取得するアンケートへの回答を指します。

※10.口コミ登録は、OTA・Google・SNS等への口コミ・レビュー投稿を指します。

表の見方・記号の定義

本表は、ホテルの顧客接点と業務を整理するための出発点として作成したものです。記載内容はすべての宿泊施設に当てはまるわけではないため、自施設の状況に合わせて

「売上への寄与」「顧客体験への寄与」の見方

○:売上または顧客体験への寄与が大きい

-:売上または顧客体験への寄与は限定的

実際の業務における活用度の見方

○:その段階で主要な活用方法となるもの

△:活用は可能だが、その段階での主な使い方ではないもの

※基本チャネルの追加有料オプションで利用できる機能を含みます。ただし、SEMのように有料利用が前提となるチャネルは除きます。

-:通常は活用しない、または該当する機能・接点が少ないもの

「公開範囲」の見方

Open:ホテルが発信した情報や顧客とのやり取りを、他の顧客や一般の利用者も閲覧できるもの

Closed:特定の顧客との個別のやり取りなど、他の顧客や一般の利用者が閲覧できない情報・コミュニケーション

※同じチャネルでも、利用方法によって公開範囲は異なります。例えば、SNSの投稿やコメントはOpen、DMによる個別のやり取りはClosedとして整理できます。本表では、両方の機能を持つチャネルはOpenとして分類しています。

顧客体験起点型ホテルDXフレームワークの使い方

1

「○」「△」「-」などの欄を、自施設で実際に利用しているツール名、担当部署、担当者、自社における有効性評価に置き換えてください。


例:OTA経由の顧客に対する有料の再訪PRなど、契約プランやオプションによって利用可否が変わるものもあります。

本表の内容は一般的な活用度の目安であり、実際に契約しているプランやオプションによって、適切な評価は変わります。

2

表をコピーして、各業務にかかっている時間を別表に記入すると、担当者ごとの業務量や、自社にとってのツールの有効性を可視化できます。

カスタマージャーニーごとに現在の施策、担当、ツール、工数を整理すると、重複している作業、負担の大きい業務、改善すべき顧客接点が見えやすくなります。これにより、DX施策の優先順位を検討しやすくなります。

3

本表は、「唯一の正解」を完成させるためのものではありません。

評価は業界内でも見方が分かれる部分があり、どの立場(自社運営/支援会社など)から見るかによっても妥当な判断は変わります。

自施設に置き換える過程で「ここは違うのでは」という議論が生まれること自体に、本表を使う意味があります。

4

評価に疑問や違和感がある箇所は、セルにメモとして残してください。

違和感の理由もあわせて残しておくと、自社施設の戦略を検討する際の重要な材料になります。

特に、複数人や複数部署で確認した際に議論になった箇所は、関係者間で認識のズレがある重要な論点です。運用代行会社などの外部支援先と確認する場合も同様です。

顧客体験起点型ホテルDXフレームワークについて

『顧客体験起点型ホテルDXフレームワーク』は、「今、自施設ではカスタマージャーニーのどこを改善したいのか」を起点に、施策を整理するためのものです。

例えば、目的によって重視すべき顧客接点は変わります。

  • 施設候補に入りやすくしたい
  • 宿選びの段階で選ばれやすくしたい
  • 宿泊後の顧客理解を深めたい
  • 再訪につなげたい

どの段階を改善したいかによって、優先すべきチャネルや施策も変わります。

現在のホテルには、OTA、SNS、Googleマップ、LINE、自社Webサイト、メールなど、多くの顧客接点があります。さらに、OTAやSNSの中でも複数のサービスを使い分けるケースがあり、運用は複雑になりがちです。

そのため、これらすべてを運用しながら継続的に改善することは、施設規模にかかわらず容易ではありません。

観光庁の「宿泊施設のためのIT活用ハンドブック」でも、IT活用は単なるツール導入ではなく、生産性向上や顧客価値向上につながる経営・業務の取り組みとして捉えることが示されています。

重要なのは、「使えるツールをすべて使う」ことではなく、「カスタマージャーニーのどの段階から改善するのか」を決めることです。

例えば、宿選びの段階を改善したい場合は、OTA、Googleマップ、自社Webサイト、口コミ対応などが主な検討対象になります。

一方で、再訪につなげたい場合は、LINE、メール、会員施策などの優先度が高くなります。

つまり、出発点は「SNSをやるべきか」「LINEを導入すべきか」ではありません。まず「どの顧客行動を改善したいのか」を決め、そのうえで必要な顧客接点、業務、担当者、ツールを組み合わせて考えることが重要です。

ツールではなく、カスタマージャーニーから考える

カスタマージャーニーで整理すると、ツールごとに得意な顧客接点や役割が見えてきます。

一方、ホテルの運営では、SNSはマーケティング担当、自社WebサイトはWeb担当、OTAはOTA担当、価格設定はレベニュー担当、LINEはフロント、メール配信はCRM担当というように、部署ごとに担当ツールを分けて運用することがあります。

担当やっていること(例)
マーケティング担当SNS
Web担当自社サイト
OTA担当OTA
価格・在庫管理価格
フロント/現場LINE
顧客情報・メルマガメルマガ

例えば「宿選び」という一つの行動にも、OTA、Googleマップ、SNS、自社Webサイト、AI検索・生成AIなど、複数の接点が関わります。宿泊客にとっては一連の体験でも、ホテル側ではツールごとに担当者や部署が分かれていることがあります。

その結果、ホテル側ではツールごとの最適化が進む一方で、顧客体験全体を俯瞰して改善する視点が持ちにくくなることがあります。

ただし、問題は組織が縦割りであること自体ではありません。カスタマージャーニーを起点に考えると、顧客に対して果たしたい役割が見えてきます。大切なのは、「部署ごとにツールを持つ」ことではなく、「顧客に対する役割ごとに、必要なツールを組み合わせる」ことです。

組織は縦割りのままでも構いません。ただし、顧客接点まで縦割りにしてしまうと、顧客体験全体の最適化は難しくなります。ホテルDXでは、新しいツールの導入だけでなく、カスタマージャーニーを起点に顧客接点と業務を再設計する視点が重要です。

まとめ

観光庁の事例からは、取り組みが進んでいる施設ほど、SNSやLINE、OTAなどを単なるツールではなく、顧客接点ごとの役割として設計していることが分かります。

顧客は複数のチャネルを行き来しながら、宿泊施設を比較・検討しています。

一方で、ホテル側の運用はツールや業務単位で分かれがちです。このギャップを整理するには、カスタマージャーニーを起点に考える必要があります。

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