AWS・Microsoft Azure・Google CloudでホテルBIを構築|構成要素・選定条件・導入の進め方を解説【ホテルDX・分析基盤 第5回】
2026/10/03
自社データと市場データを継続的な意思決定につなぐ分析基盤
はじめに
第4回「ホテルBIを自作するか、専用ツール(SaaS)を導入するか」では、ホテルBIを自作するか専用ツール(SaaS)を導入するかについて、ホテル独自の判断基準をどこまでシステム化するかという観点から整理しました。第5回では、その判断基準を日常業務で使い続けるための分析基盤について、「自社データと市場データ」をクラウド上で保存、処理、可視化する際の考え方を整理します。
クラウドBIを活用した分析基盤の構築
Amazon QuickSight、Microsoft Power BI、Google CloudのLookerなどのBIツールは、主にデータの分析と可視化を担います。※
ホテルBIを継続して運用する場合は、データの収集、定義の統一、加工、権限管理も含めて設計します。
- データを集める
- 保存する
- 整える
- 分析する
- 可視化する
- 判断・アクションにつなげる
構成の規模は、利用するデータ、更新頻度、施設数、利用者数、必要な権限によって変わります。最初から大規模に構築せず、対象とする施設、データ、分析テーマを限定して始め、運用状況を確認しながら段階的に対象を広げる方法もあります。
※製品や利用方法によっては、データ接続、加工、モデリングなどの機能も含まれます。
ホテルBIのクラウド基盤は、4つの層で考える
本記事では、クラウド分析基盤とその運用を、データ保存、処理・分析、可視化、意思決定・業務の4つの層に分けて整理します。前半の3層は一般的なデータ基盤の構成要素であり、4層目は第4回で扱った判断基準と業務上の対応を結び付けるために、本記事独自の整理として加えています。
4つの層に分けると、自社で管理する範囲と、製品や外部サービスへ任せる範囲を整理できます。
| 層 | 役割 | ホテルBIで扱う内容の例 |
|---|---|---|
| 1. データ保存 | 元データと履歴を保持する | PMS出力、予約進捗、売上、競合価格・在庫、予算、イベント情報 |
| 2. 処理・分析 | 形式、定義、粒度をそろえる | 施設ID・宿泊日・取得日時の統一、キャンセル除外、指標計算、履歴比較 |
| 3. 可視化 | 利用者が状態を確認できる形にする | 予約進捗、市場価格、競合在庫、前年差、価格推移、確認対象日 |
| 4. 意思決定・業務 | 判断基準と次の対応を結び付ける | 価格見直し候補、販売制限の確認、販促対象、担当者による最終判断 |
最初に決めるのはクラウド製品ではなく、運用条件
- 何施設のデータを扱うか
- 過去時点の予約進捗や競合価格の履歴を残すか
- 誰が閲覧し、誰が編集・管理するか
- 価格の見直し、販売制限、販促などのうち、どの業務について確認対象や対応候補を表示するか
- どのデータを、誰が、どの頻度で更新するか
- 施設別、部門別、担当者別に閲覧範囲を分けるか
- 障害や更新失敗を誰が確認し、誰が保守するか
例えば、1施設で月次分析を行う場合と、複数施設の予約進捗と市場価格を毎日更新する場合では、必要なデータの保存容量や更新処理、権限設定が異なります。
クラウド(AWS・Microsoft Azure・Google Cloud)ごとの代表的な構成
次の表は、各クラウドで保存、処理・分析、可視化を担う代表的なサービスの例です。実際の構成は、データ量、更新方法、既存環境、必要な機能によって異なるため、製品の優劣や標準構成を示すものではありません。
| 役割 | AWS | Google Cloud | Microsoft |
|---|---|---|---|
| 保存 | Amazon S3 | Cloud Storage | Azure Data Lake Storage Gen2 |
| 処理・分析 | Athena/Redshift/Lambda等 | BigQuery等 | Azure Synapse Analytics/Microsoft Fabric等 |
| 可視化 | Amazon QuickSight | Looker/Looker Studio | Power BI |
| 選定時の確認 | 既存AWS環境、権限、運用体制 | BigQuery・Lookerの利用状況、権限 | Microsoft 365・Power BI・Azureの利用状況 |
いずれのクラウドでも、保存、処理・分析、可視化を複数のサービスで分担する構成が考えられます。既存環境によっては、表にないサービスや他社製品を組み合わせる構成もあります。
クラウドを選ぶ際は、サービスの比較だけでなく、既存契約、認証基盤、データの保存場所、運用担当者のスキル、利用者が日常的に使う環境を確認します。
参照:
AWS公式ドキュメント「Authorizing connections to Amazon Athena」:QuickSight、Athena、S3の接続と権限。
Microsoft Learn「Power BIを使用してAzure Data Lake Storage Gen2のデータを分析する」「Power BIを使用してAzure Synapse Link for Dataverseデータを視覚化する」:Power BIとAzure Data Lake/Synapseの接続例。
URL:https://learn.microsoft.com/ja-jp/power-apps/maker/data-platform/export-to-data-lake-data-powerbi
URL:https://learn.microsoft.com/ja-jp/power-apps/maker/data-platform/azure-synapse-link-powerbiGoogle Cloud公式ドキュメント「Google BigQuery | Looker」:LookerとBigQueryの接続。
ホテルでのクラウドBIの導入事例
BWH Hotelsの事例
AWS Business Intelligence Blogでは、BWH Hotelsが、従来利用していたIBM CognosからAmazon QuickSightを中心とするAWSのデータ・分析環境へ移行した事例が紹介されています。2021年の事例では、Amazon S3のデータレイク、Amazon Redshift、AWS Lambda、AWS Glueを組み合わせ、QuickSightをBIのフロントエンドとして利用する構成が説明されています。また、宿泊後アンケートや第三者の競合ベンチマークツールなど、従来は別に管理していたデータもQuickSightへ統合していました。
2023年に公開されたAWSの続編記事では、BWH Hotelsについて、24,000人の登録ユーザーと8,000人の月間アクティブユーザーがQuickSightを利用し、Revenue Management向けに約20~30種類のダッシュボードを運用していると紹介されています。さらに、利用者の拡大後もデータ定義、利用ルール、トレーニングを管理しているとされています。この事例は、大規模なBI利用では、ダッシュボードの構築だけでなく、定義や利用ルール、教育を含む運用設計が重要になることを示しています。
その他の事例(Accor Luxury & Premium Brands、Remington Hospitality)
ホテル業界では、AWSとQuickSight以外の構成も確認できます。Accor Luxury & Premium BrandsはTableau Cloudで100を超えるホテルのレポートを集約し、Remington HospitalityはMicrosoft Power BIを基盤とする独自BIプラットフォームを運用しています。これらの事例からも、採用する製品は異なっても、複数施設のデータを集約し、共通の指標で確認できる環境を整える点は共通していることが分かります。
参照:
Remington Hospitality「Best-In-Class Business Intelligence: REMi」
AWSにおけるS3、Athena、QuickSightを使った基本構成例
ホテルBIの構成例として、Amazon S3、Amazon Athena、Amazon QuickSightを組み合わせた場合の構成と運用の流れを確認します。
AWSの公式ドキュメントでは、AthenaはS3内のデータを標準SQLで直接分析するサービスとされ、QuickSightからAthenaと関連するS3バケットへ接続する方法が案内されています。
1
S3に元データと加工後データを保存する
各施設のPMS等から出力した自社データと、市場データサービスから提供される競合価格・在庫データをS3へ保存します。最初から一つのファイルへまとめるのではなく、元データを保持する領域と、分析用に整えたデータを保存する領域を分けると、後から計算条件を見直しやすくなります。
| 自社データ | 宿泊日、予約日、客室数、売上、ステータスなど |
| 市場データ | 宿泊日、取得日時、対象施設、価格、販売状況など |
| 補助データ | 施設マスター、競合施設グループ、予算、イベント情報など |
2
データの定義と粒度をそろえる
自社データと市場データを比較する前に、施設、宿泊日、取得日時、部屋・プラン条件、通貨、税・サービス料の扱いをそろえます。同じ宿泊日のデータでも取得時点が異なれば、予約進捗と市場価格の関係を誤って解釈する可能性があります。
3
AthenaでS3上のデータをクエリし、分析用データを作る
AthenaからS3上のデータへSQLクエリを実行し、QuickSightで利用する分析用データセットを作ります。例えば、宿泊日別に自社の予約進捗と競合価格を対応付ける、前回取得時からの価格変化を計算する、競合施設の販売状況から確認対象日を抽出するといった処理が該当します。
加工が複雑な場合や更新頻度が高い場合、複数システムから自動連携する場合には、必要に応じて、クエリ結果を分析用データとしてS3へ保存する構成やLambda、Glue、Redshift、RDSなどを含む構成も検討対象になります。
4
QuickSightで可視化し、判断対象を絞る
QuickSightからAthenaへ接続し、分析用データセットとダッシュボードを作ります。表示するだけでなく、第4回で整理した判断基準に沿って、確認すべき宿泊日や施設を絞り込む設計にします。
| 表示する情報 | 確認すること |
|---|---|
| 予約進捗と計画差 | 計画を上回る日、下回る日 |
| 自社価格と競合価格 | 市場内での価格位置、前回からの変化 |
| 競合在庫・販売状況 | 市場の販売状況に変化がある日 |
| 判定結果や確認候補 | 価格、販売制限、販促を確認する候補日 |
ダッシュボード上の判定を最終結論とせず、担当者に対して判定に使った元データを提示することで、根拠を確認して価格、販売制限、販促などの対応を判断できるように設計すると意思決定がブラックボックス化しにくくなります。
生成AIは、基盤の上で判断支援に利用する
生成AIは、分析結果の要約、変化点の説明、担当者が確認すべき項目の整理、次の対応候補の文章化などに利用できます。一方、数値条件に基づく確認対象の抽出や判定は、SQLやBIの計算ロジックで処理した方が、条件と結果を検証しやすい場合があります。生成AIを利用する場合は、参照するデータと指標の定義、出力を確認する担当者を決めたうえで、第3回と第4回で整理した分析業務へ適用します。
クラウドやBI製品に組み込まれたAI機能を使う方法と、自社で生成AIサービスを組み合わせる方法があります。どちらの場合も、AIが参照するデータと指標の定義をそろえます。価格変更や販売制限などの業務へ反映する前に、担当者が元データと出力内容を確認できるようにすると、AIが提示した内容の妥当性を確認し、実行するかどうかを判断しやすくなります。
継続運用で必要になる設計
本番運用に入る前に確認すべきポイントを次の表に整理します。
| 設計項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 更新 | 更新頻度、締め時刻、再実行、遅延時の扱い |
| 品質 | 欠損、重複、取得失敗、売り切れ表示、集計値の照合 |
| 権限 | 施設別・部門別の閲覧範囲、管理者、外部委託先のアクセス |
| 履歴 | 元データ、加工後データ、指標定義、変更履歴の保持 |
| 費用 | 保存量、クエリ量、利用者数、自動処理、保守工数 |
| 保守 | 障害検知、仕様変更、担当者、問い合わせ窓口 |
市場データについては、取得対象、更新頻度、履歴、提供形式、利用条件を、分析画面の設計とは分けて確認します。BI画面が完成していても、競合価格・在庫を継続して取得できなければ、市場データを使った分析が行えません。
どこから始めるか
シリーズの内容に沿って進める場合は、第2回の『ホテルBI分析一覧(Ver0.1)』から優先する分析を一つ選び、第4回で整理した判断基準と結び付けます。その分析に必要なデータと更新条件を決め、限定した範囲から構築を始めます。
- 一つの判断テーマを選ぶ
- 必要な自社データと市場データを決める
- 1施設または限定した範囲でデータを保存する
- 加工条件と指標定義を確認する
- BIで可視化し、既存帳票や元データと照合する
- 利用者、権限、更新、保守を設計して対象を広げる
分析目的から必要なデータ、更新条件、構成を順に決めると、導入する製品と実際の用途が合致しているか事前に確認しやすくなります。
まとめ
ホテルBIの構成を検討する際は、利用する製品だけでなく、対象とする分析、データの更新条件、社内で管理できる範囲を確認します。これらを整理したうえで、既存環境や保守体制に合うクラウドとサービスを検討します。
データ保存、処理・分析、可視化、意思決定・業務の4層のうち、どこまでを自社で管理するかは、分析目的、データ、更新頻度、権限、保守体制によって変わります。
クラウド製品を先に選ぶのではなく、分析目的、必要なデータ、更新条件、判断基準、運用体制を整理し、その条件に合う構成を選ぶことが重要です。
弊社の「データ連携・システム連携」をはじめとする市場データサービスを検討する場合は、対象施設、取得条件、更新頻度、履歴、提供形式に加え、自社のPMSデータや判断基準と接続できるかを確認します。
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