ホテルBIに必要なデータとは|PMSだけでわかること、外部データが必要な分析【ホテルDX・分析基盤 第2回】

2026/09/28

ホテルBIや分析基盤に必要なデータを整理。PMSデータだけでできる分析と、市場・競合データが必要な分析の違いを解説します。ホテルBIを構成する5種類のデータ、分析パターン、市場データの取得方法まで紹介します。

はじめに:BIを作る前に、必要なデータと取得元を整理する

第1回「BIツールは大規模ホテルだけのものなのか|なぜデータ分析が必要なのか」では、Excel+AI、生成AIによる簡易ツール化、クラウド分析基盤など、ホテルの分析環境を整備する複数の方法を整理しました。いずれの方法でも、利用できるデータによって実施できる分析は変わります。本記事では、分析に必要なデータの種類と取得元を整理します。

ホテルBIを構成する5種類のデータ

ホテルの分析基盤で扱うデータを、取得元と利用目的に沿って5種類に分けました。同じOTA上の情報でも、自施設の予約・販売情報は「OTA・予約サイトデータ」、競合施設の公開価格や販売状況は「市場データ」に分類しています。

データ種別主な項目取得元
PMSデータ予約数・宿泊実績・ADR・稼働率・リードタイム・国籍自社PMS
OTA・予約サイトデータ自施設の販売価格・プラン・在庫・予約実績サイトコントローラー等
自社サイトデータ自社直販価格・予約状況自社予約システム
市場データ競合価格・市場価格・イベント・地域需要自前取得 または 外部データサービス
外部統計データ訪日外国人数・地域別観光客数・宿泊統計公的統計

PMS、OTA、自社サイトから得られる自施設の情報は、施設が保有しているか、既存システムから取得できる「自社データ」です。市場データと外部統計データは施設外から取得する「外部データ」で、継続利用する場合は取得方法や更新方法も検討対象になります。必要な分析によっては、自社データに加えて外部データが必要になる場合があります。

PMSデータだけで分かること、分からないこと

PMS(宿泊管理システム)には、自社施設の予約・稼働・売上などの実績が記録されます。通常、このデータだけでは市場全体や競合施設の動きは確認できません。観光庁の2025年調査では、データ分析・活用に関わるツールの導入率は、情報発信や予約・料金管理に関するツールよりも低く、いずれの客室規模でも同様の傾向が見られました。

PMSデータからは、自施設の予約・稼働・売上の推移を確認できます。一方、市場価格や需要の変化と自施設の実績の関係を分析するには、PMSデータに市場・競合データを組み合わせる必要があります。

分析目的から逆算すると、必要なデータが見えてくる

5種類のデータが、実際の分析でどのように使われているかを確認しました。

以下の分析パターンは、国内外のホテル向けBI・RMS・PMSの公開情報を調査して整理したものです。

  • 国内・海外のホテル向けBI・RMS・PMS等、50社超の公式サイト・製品情報を対象としました。
  • 各社の製品ページに記載されたデータ分析機能は、生成AIを使った一次的なデスクリサーチで抽出しました。抽出結果は製品仕様を網羅的に検証したものではなく、公開情報から分析パターンを整理するための初期調査です。
  • 各社独自の名称で提供されている類似機能は、名称や分類を統合せず、個別の分析パターンとして数えています。このため、実質的に近い分析が複数項目に分かれている場合があります。
  • 今回は初版(Ver0.1)として公開します。対象製品や分類内容を確認しながら今後も更新を続けます。

この方法で整理した分析パターンの一部を、5種類のデータとの対応関係で以下に示します。

分析パターンPMSデータその他自社/外部データ何がわかるか
予約ペース・ピックアップ分析日次予約実績・過去同時期実績—直近期間の予約増減、過去同時期との比較
需要予測(全体、短期〜長期)予約履歴市場需要(外部)将来の予約数・稼働率の見込み
競合価格の収集・比較自社価格OTA公開価格(外部)自社と競合の価格差
市場ポジショニング分析(自社×競合セット)自社実績競合価格・在庫(外部)自社ADR・稼働率・RevPARが競合集合の平均に対して何%かを示す指数(ARI/MPI/RevPAR Index等)
主要指標(ADR/RevPAR/稼働率等)の一覧・推移表示予約・売上データ—ADR/RevPAR/稼働率の現状・推移
チャネル別・顧客地域別の収益貢献分析チャネル別予約実績・顧客の国籍・地域—チャネル・顧客の国籍・地域ごとの収益貢献度
顧客セグメント化(属性ベース)予約履歴・会員情報—国籍・会員ランク等、静的な属性による顧客群の構成
感情分析(センチメント分析)—口コミやアンケート結果(外部)レビューの感情傾向(好意的/否定的等)
銀行・OTA入金照合予約・請求・売上銀行入金データ/OTA精算データ(外部)売上・請求額と実際の入金額の差異

確認した58パターンのうち、36件はPMSなどの自社データだけで構成され、22件は外部データを使用していました。外部データを使う分析は、自施設の実績だけでは把握できない市場との比較を目的とするものが中心でした。

なお、上記は全体(58パターン)からの抜粋です。全体の一覧は「ホテルBI分析一覧(Ver0.1)」として別途公開しています。

市場・競合データを自前で集める場合の壁

市場・競合データの取得方法として、競合施設のサイトやOTAから価格情報を収集するスクレイピングを自社で構築する選択肢があります。対象施設数が限定されていれば、技術的に実装すること自体は可能で、生成AIを活用すると初期実装を進めやすくなっています。

ただし、商用・継続運用のレベルまで持っていくと、実装以上に運用面の負荷が大きくなります。競合施設ごとに、次のような差異への対応が必要になります。

  • OTAごとのHTML構造の違い
  • OTAと公式サイトでのプラン構造・部屋タイプ・人数条件・日付条件の違い
  • 税・サービス料の含み方や在庫表示、売り切れ表示の違い
  • bot対策や、サイト仕様変更への継続的な追随

一度構築しても、サイトの仕様変更や取得条件の変更によって、昨日まで取得できていたデータが取得できなくなることがあります。そのため、継続的な監視と改修が必要になります。

また取得対象となるサイトの利用規約やデータ利用条件の確認も必要になります。

生成AIを活用して初期実装を進めやすくなっても、継続運用には保守や監視が必要です。

市場データの調達手段の一つ:PriceAnalyzer

市場・競合データを調達する方法は、大きく分けて、自社で取得・維持する方法と、外部データサービスを利用する方法があります。取得する媒体や対象施設数、更新頻度、利用期間、社内の開発・運用体制にあわせてどちらかを選択します。

外部データサービスの一例として、当社は全国4万件強の宿泊施設を対象に、価格・稼働・在庫データの「データ連携・システム連携」サービスを提供しています。※

データの提供方式は3種類です。利用者が手作業で確認するのか、既存の分析基盤へ定期的に取り込むのかによって、選択する方式が変わります。

提供方式形式特徴
手動ダウンロードExcel/CSVシステム連携不要。PriceAnalyzerとの個別契約で利用可能。月額利用量だけでご利用いただけます。
Cloudflare R2 配信Parquetホテル単位でオンデマンドにアクセス。専用サーバ不要でサーバレス構成に適合。低コストで運用可能。
AWS S3連携CSV(Gzip)大規模データのバッチ処理に対応。BigQueryやAthena等の既存DWH環境へ統合しやすい。

利用例には、価格最適化や需要分析を行うレベニューマネジメントシステムへの組み込みや、エリア別の価格帯推移・需要変動を確認する市場分析・観光分析ツールの基礎データとしての利用があります。当社では、競合価格の推移、部屋タイプ別の価格動向、イベント時の価格変動を確認できるよう、価格・在庫の履歴データを継続して蓄積しています。

※当社が提供するデータは、業務委託契約に基づき、分析・システム連携用途向けに整備したものであり、データそのものの再販売・再配布を目的としたサービスではありません。

まとめ

本記事で整理した分析パターンを見ると、自社データだけで実施できる分析と、外部データが前提になる分析に分かれます。自施設の実績や予約ペースを確認する分析は、PMSデータを中心に始められます。競合価格、市場ポジショニング、地域需要との比較まで行う場合は、市場・競合データや外部統計データも検討対象になります。

市場データは、自社で取得・維持する方法と、外部データサービスを利用する方法のどちらでも調達できます。対象施設数、更新頻度、利用期間、社内の開発・運用体制が、取得方法を選ぶ際の主な判断材料になります。

PMSの予約ペースやリードタイムと市場・競合データを同じ期間・条件で比較できれば、市場変化に対する自施設の動きを、価格・販売施策の検討材料にできます。第1回で紹介したForward Revenue Managementでも、このような自社データと外部データの組み合わせを前提としています。

次回は、「生成AIでホテルBIはどこまで自社開発できるのか」をテーマに解説いたします。

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