BIツールは大規模ホテルだけのものなのか|なぜデータ分析が必要なのか【ホテルDX・分析基盤 第1回】

2026/09/28

ホテルBIは大規模ホテルだけのものなのか。観光庁調査をもとに分析ツールの導入状況を確認し、分析基盤が必要とされる背景や、Excel+AIから始める方法を解説します。

はじめに

シリーズ「観光庁:IT活用事例集分析」の第4回記事「ホテルにおけるデジタル活用フレームワーク|客室規模でわかる宿泊業デジタル化の現状」では宿泊施設におけるデジタル活用を、次の6つの領域として整理しました。

領域目的主なツール
領域1国内向けの予約受付基盤を整える自社Webサイト(日本語)、国内OTA
領域2予約受付と販売チャネルを管理するサイトコントローラー、自社Web予約システム
領域3外国人旅行者への販売機会を広げる自社Webサイト(多言語)、海外OTA
領域4予約・客室・顧客情報を一元管理するPMS
領域5需要や予約状況を踏まえて価格・販売を調整するレベニューマネジメントシステム
領域6複数のデータを組み合わせて判断するBI、データ可視化、需要予測、顧客分析

このうち、領域1~領域5は比較的イメージしやすい一方、領域6の「複数のデータを組み合わせて判断する」は、宿泊施設におけるデジタル活用の中でも最もイメージしづらい領域かもしれません。

BI(Business Intelligence)ツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツールなどは、この領域6に位置付けられるツールです。

しかし、

  • そもそも必要なのか
  • どの規模の宿泊施設に必要なのか
  • 高額なシステムを導入しないと使えないのか

といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

実際、観光庁の調査でも、BIツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツールの導入率は、どの客室規模区分でも低い水準にとどまっています。

本シリーズでは、「ホテルにはなぜ分析基盤が必要なのか」を出発点として、次のテーマを順に整理していきます。

  • BI導入率の現状
  • BIに必要なデータ
  • 生成AIによる構築方法
  • 自作かツール導入かを判断するための考え方
  • クラウド分析基盤の構築方法

まず第1回では、「なぜ導入が進まないのか」「どのような方法から始められるのか」を整理します。さらに、分析基盤が整った先に実現できることを、モデルケースとして紹介します。

宿泊施設のデータ分析ツール導入率

領域6「複数のデータを組み合わせて判断する」は、予約、販売、顧客、市場などのデータを組み合わせて分析し、価格設定や販売施策の判断に活用する領域です。

他の領域と比べて導入状況や具体的な活用方法が見えにくく、どの程度普及しているのかも、一般にはあまり知られていません。

そこでまず、観光庁の調査結果をもとに、BIツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツールといった分析系ツールの導入状況を確認してみましょう。

観光庁の2025年調査では、宿泊施設における予約・料金管理や販売チャネルに関するデジタルツールの導入が比較的進んでいる一方、データ分析・活用に関わるツールの導入率は、客室規模を問わず低い水準にあります。

実際の導入率を見ると、BIツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツールのうち、最も高いのは100〜299室における顧客分析ツールの20.6%で、それ以外はすべて20%未満です。分析系ツールは、いずれの客室規模区分でも導入率が低い状況にあります。

客室規模別に見る、データ分析ツールの導入率

観光庁調査(2025年、n=995)をもとに、客室規模別のBIツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツールの導入率を比較した図。販売チャネル管理や予約管理ツールと比べると、データ分析・活用系ツールの導入率は全体として低い。最も高い項目は100~299室の顧客分析ツール(20.6%)で、それ以外の多くの区分・ツールでは導入率が15%未満となっている。100室以上の施設でもデータ分析・活用ツールの普及率は限定的であり、予約管理や収益管理のデジタル化と比較すると導入段階に差が見られる。

# ホテルにおけるデジタルツール導入率(客室規模別)

観光庁「宿泊業におけるデジタルツールの導入・活用状況等の実態把握に係る調査」(2025年)の講演資料に掲載された数値をもとに、ホテル・宿泊施設のデジタルツール導入率を客室規模別に整理しました。

本データでは、自社Webサイト、OTA、サイトコントローラー、PMS、レベニューマネジメントシステム(RMS)、BIツールなどの導入率を比較できます。

## 客室規模別デジタルツール導入率

| カテゴリ | ツール | 300室以上 | 100~299室 | 50~99室 | 30~49室 | 10~29室 | 10室未満 |
|----------|----------|----------:|----------:|----------:|----------:|----------:|----------:|
| データ分析・活用 | BIツール | 3.8% | 9.3% | 6.8% | 0.0% | 2.6% | 0.5% |
| データ分析・活用 | データ可視化ツール | 2.2% | 11.9% | 10.7% | 6.4% | 4.7% | 0.6% |
| データ分析・活用 | 需要予測システム | 12.8% | 13.5% | 6.2% | 4.3% | 2.7% | 0.0% |
| データ分析・活用 | 顧客分析ツール | 9.3% | 20.6% | 11.2% | 7.5% | 9.0% | 1.7% |

## データから読み取れる傾向

- 需要予測システム、顧客分析ツールなどの分析系ツールは全体的に導入率が低い

## 関連キーワード

ホテルDX、宿泊業DX、ホテルBIツール、ホテルデータ分析、ホテルデジタル化、ホテル経営、ホテル収益管理

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出典:観光庁「宿泊業におけるデジタルツールの導入・活用状況等の実態把握に係る調査」(2025年、講演資料掲載値、N=995)をもとにeSURVEY作成。 

領域6の導入を難しくする論点

1

導入・運用コスト

本格的なBIツールやレベニューマネジメントシステムは、導入費用だけでなく、運用・保守の負担も発生します。

特に小規模・中規模施設では、初期導入費用、月額利用料、運用担当者の確保などが、導入を検討する際の論点になると考えられます。

2

データ連携と整備の負担

分析環境を整備する際には、分析そのものだけでなく、分析に必要なデータの収集にも大きな負担がかかります。

観光庁も、生産性向上施策の一つとして、「PMSやOTA等で扱うデータ仕様の統一化による連携促進」を課題として挙げています。

実際には、「PMS」「OTA」「自社予約システム」「市場データ」「外部統計データ」などがそれぞれ異なる形式で存在しており、分析を始める前にデータを整理・連携する必要があります。

分析ツールの導入よりも先に、「分析できる状態のデータを作ること」の方が難しいケースも少なくありません。

3

分析目的と運用体制の明確化

BIツールを導入しても、何を確認し、誰がどの頻度で利用し、その結果をどの判断につなげるのかが決まっていなければ、継続的な活用にはつながりません。ツールの選定より先に、分析目的や利用者、更新頻度、判断方法を整理する必要があります。

領域6は、施設の規模や目的に応じて段階的に整備できる

領域6の導入を検討する際には、例えば、

  • PMSのデータを十分に活用できていない
  • 市場データや競合データと組み合わせた分析まで進めていない
  • 分析したい内容が明確になっていない

といった状態から始めるケースも考えられます。 そのため、領域6には、Excelを使った分析、必要な機能のツール化、クラウド分析基盤の構築など、複数の整備方法があります。

施設の規模、分析目的、データ量、社内体制に応じて、必要な方法を選択または組み合わせることができます。

方法1:Excel+AIで分析を始める

最初の段階では、PMSから出力できるExcel/CSVデータとCopilotなどの生成AIを利用して、
「予約ペース分析」「前年同月比較」「リードタイム分析」「曜日別分析」「国籍別分析」
などを行うことができます。

この段階で重要なのは、BIツールを導入することではなく、自施設が何を見たいのかを明確にすることです。
競合施設の価格動向を比較したい場合も、まずは市場データをExcelに取り込み、自施設データと並べて確認するところから始めることができます。

方法2:必要な分析をツール化する

分析作業が定着すると、

「毎回同じ集計を繰り返している」「複数人で同じ指標を見たい」「データ更新を自動化したい」という課題が出てきます。

こうした段階では、定型化した分析に対象を絞り、生成AIを開発補助に使ってツール化する方法もあります。例えば、Claude Codeなどの開発支援ツールを利用できます。ただし生成されたコードの確認やテスト、運用開始後の修正・保守を行える体制が前提になります。

目的は、「分析を行うこと」ではなく、「分析を継続できる状態を作ること」です。

また、市場データも継続的に利用したい場合には、軽量なクラウド連携を組み合わせることで、自動化を進めることができます。

方法3:クラウド分析基盤を整備する

複数施設を横断して分析する場合や、複数部門で共通の分析環境を利用したい場合には、PMSや市場データなどを継続的に集約・整備し、BIから利用できる分析基盤そのものを構築することも選択肢になります。

PMSデータや市場データをクラウドへ集約し、

「BIダッシュボード」「レベニューマネジメント」「需要予測」「顧客分析」

などを共通の基盤上で運用できるようになります。

大規模ホテルグループの事例として、BWH Hotels(旧Best Western Hotels & Resorts)では、競合ベンチマークデータや宿泊者アンケートデータをAmazon Web Services(AWS)が提供するBIサービス「Amazon QuickSight」に統合し、レベニューマネジメントチームの分析基盤として活用しています。

この段階では、分析ツールを導入するかどうかではなく、データを組織全体でどう活用するか
がテーマになります。これは大規模ホテルグループの事例であり、すべての宿泊施設が同様の構成を必要とすることを示すものではありません。一方で、複数のデータを統合して意思決定に利用するという「領域6」の具体例として参考になります。

出典:AWS Business Intelligence Blog

Best Western slashes analytics costs, improves operations worldwide using Amazon QuickSight

BWH Hotels scales enterprise business intelligence adoption while reducing costs with Amazon QuickSight

ホテルの分析環境には、どのような選択肢があるのか

ここまで見てきたように、領域6「複数のデータを組み合わせて判断する」を実現する方法は一つではありません。

Excelと生成AIを活用する方法もあれば、必要な機能だけを内製する方法、本格的な分析基盤を構築する方法もあります。また、専用のBIツールやレベニューマネジメントシステムを導入する方法もあります。

それぞれ特徴が異なるため、施設規模だけでなく、3つのポイントによってに選択肢は変わります。

POINT 01

何を分析したいのか

POINT 02

どれくらい自由にカスタマイズしたいのか

POINT 03

社内にどの程度のIT・開発体制があるのか

例えば専用ツールは運用負荷が小さい一方、多くの場合は特定の分析目的に特化しています。価格提案、需要予測、顧客分析など、分析目的が変わると別製品が必要になるケースもあります。

一方で内製型の分析基盤は、自由度は高いものの、開発や保守、データ連携を自ら行う必要があります。

代表的な選択肢を比較すると、次のようになります。

※分析環境を整える際に取り得る方法や構成例を比較します。比較対象の粒度は同一ではなく、クラウド分析基盤上で専用ツールを利用するなど、複数の方法を組み合わせる場合もあります。

項目Excel+AIClaude Code等でのツール化AWS+QuickSight専用BIツール・RMS
主な利用場面分析目的を試しながら明確にしたい定型分析を繰り返し、複数人で共有したい複数施設・複数データを共通基盤で扱いたい標準機能を短期間で導入し、保守を任せたい
初期費用既存環境を利用できる場合は小さい開発工数分(内製なら人件費)構築費(設計・実装)導入設定費
継続的な利用費既存環境+AI利用料利用する開発AI・環境によるクラウド利用料+保守製品・契約条件による
カスタマイズ性高い高い高い製品・契約の範囲内
独自データの追加容易容易設計次第で可能製品の対応範囲内に限られる
新しい分析・グラフの追加その都度AIへの指示が必要(ピポッド集計など標準機能は利用可能)その都度コードの生成・追加が必要既存データモデルの範囲内であれば、GUIで追加しやすいGUI上での追加が比較的容易(対応範囲内)
分析目的が変わった場合同じ環境で対応しやすい同じ環境で対応しやすい設計次第で対応可能製品の対応範囲外では追加対応が必要
必要なスキルExcel操作、指標の理解、AI出力の確認ある程度の開発知識クラウド構築の知識基本的な運用はノーコードで可能な製品が多い
市場データを分析基盤へ連携する方法Excel/CSVによる手動取込Parquet等による軽量連携S3等を介したバッチ連携製品・ベンダーの対応範囲による

補足:eSURVEYが提供するデータ連携の実装パターン

eSURVEYでは、競合・市場データを既存の分析環境へ取り込む方法として、利用規模や自動化の必要性に応じて複数の連携方法を想定しています。

手動で利用する場合

PriceAnalyzer上のデータをExcel/CSV形式でダウンロードし、既存の分析ファイルに取り込みます。

システム連携を必要とせず、小さく始められる方法です。

軽量な自動連携を行う場合

Cloudflare R2を介してParquet形式で配信し、必要なデータへアクセスできる構成を取ります。

クラウド分析基盤へ連携する場合

Gzip形式のファイルをAmazon S3経由で連携し、Amazon AthenaやGoogle BigQueryなどの分析環境へ取り込みます。

領域6が整うと、何ができるようになるのか

ここまで見てきたように、領域6の目的は「複数のデータを組み合わせて判断する」ことです。

では、実際に分析基盤が整うと、どのような判断ができるようになるのでしょうか。

以下は実在の運用事例ではなく、こうしたデータを組み合わせた場合に考えられる分析・判断の一例です。

PMSに蓄積された予約データと国籍情報を、予約時点(リードタイム)を軸に整理すると、

  • いつ予約が入るのか
  • どの国籍から予約が入るのか
  • どの程度のペースで予約が積み上がるのか

を把握できるようになります。

さらに、市場データや競合施設の価格データを組み合わせることで、

  • 目標とする予約状況に対して現在どの程度進捗しているか
  • 市場価格や競合施設の販売状況に変化があるか
  • 自施設の予約進捗が計画を上回っているか、下回っているか
  • 価格や販売条件を見直す必要があるか
  • 販売施策を強化すべきか[

といった判断を行うための材料を得られるようになります。

分析基盤によって、「計画と実績の差を早い段階で発見し、判断できる状態」を作ることに価値があります。

当社では、将来の予約進捗や市場の変化を確認しながら、価格や販売施策を検討していく考え方を「Forward Revenue Management(Forward RM)」として整理しています。

つまり、領域6の役割は単にグラフやレポートを作ることではなく、価格判断や販売判断を支援することにあります。

まとめ

今回確認した調査結果では、領域6に位置付けられる各ツールの導入率は、いずれの客室規模区分でも低い水準にあります。

その背景については分析環境を整備する際の論点として、

  • 分析ツールの導入・運用コスト
  • PMSやOTAなどのデータ連携と整備の負担
  • 分析目的や利用者、運用方法の明確化

が挙げられます。

一方で、領域6は必ずしも高額なBIツールから始める必要はありません。

  • Excel+AIによる分析
  • Claude Code等を活用した簡易ツール化
  • クラウド分析基盤
  • 専用BIツールやRMS

など、施設の規模や目的に応じて複数の実現方法があります。
検討にあたっては、
現在確認できている指標、追加で確認したい内容、運用を担う体制を整理する必要があります。
その結果に応じて、既存のExcelを使い続ける、必要な分析だけをツール化する、共通基盤を整備するなどの選択が考えられます。

次回は、領域6を支えるデータに注目し、
「ホテルBIに必要なデータとは何か。なぜPMSだけでは足りないのか」
について整理します。

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