ホテルにおけるデジタル活用の6領域|客室規模別 宿泊業デジタルDXの導入率(観光庁事例分析・第4回)
2026/09/25
前回までのおさらい
前回までの3回では、観光庁「宿泊施設のためのIT活用事例集」「宿泊施設のためのIT活用ハンドブック」(令和7年度「宿泊業におけるIT活用を通じた生産性向上・経営高度化の実態把握に係る調査事業)をもとに、宿泊施設のデジタル活用を検討してきました。第1回では価格設定・需要予測・地域データを活かしたレベニューマネジメント、第2回では顧客体験起点型ホテルDXフレームワーク、第3回ではフレームワークから見える5つの課題を取り上げています。
これらは、IT活用に積極的に取り組む施設へのインタビューをもとにした事例集です。各施設の取り組みや活用方法は確認できますが、宿泊業界全体におけるデジタルツールの普及状況までは把握できません。そこで今回は、関連調査に掲載された導入率を客室規模別に比較します。
今回の資料について
| 調査名 | 観光庁「宿泊業におけるデジタルツールの導入・活用状況等の実態把握に係る調査」(2025年) https://kanko-dx.go.jp/wp-content/uploads/2025/08/kanko_dx_0801seminar_kankocho.pdf |
| 回答者数 | 995票 ※1 |
| 調査期間 | 令和7年(2025年)1月14日~2月16日 ※2 |
本記事の執筆時点では、この調査の報告書として公開された資料を確認できていません。本記事では、観光庁 観光産業課 宿泊業活性化調整室の両角恵一氏による講演資料「観光DXの推進について」(令和7年(2025年)8月1日)に掲載された数値を出典として使用します。
※1.995票は、講演資料に記載されたN数を転記したものです。調査全体の回答数か、当該設問の有効回答数かは、公開資料から確認できていません。
※2.一般社団法人全日本ホテル連盟のWebサイトでは、同連盟が会員向けにアンケートへの協力を呼びかけていたことを確認できます。案内には、調査期間は令和7年1月14日から2月16日、質問数は約30問と記載されています。同連盟以外の団体を通じた調査対象や依頼方法は確認できていません。
※3.本記事の表は、講演資料に記載された客室規模別の導入率データを、eSURVEYが表形式に再整理したものです。
自社Webサイトおよび自社予約システムの導入率

「自社Webサイト(日本語)」は、『10室未満』でも72.6%で、ほかの規模区分では81.5~100.0%となっています。これに対し、「自社Webサイト(多言語)」は『10室未満』の26.1%から『300室以上』の86.7%まで、客室規模による差が大きく表れています。
「自社Web予約システム」の導入率は、『10室以上』の各区分で「自社Webサイト(日本語)」を6.6~11.6ポイント下回っています。『10室未満』では、その差が19.7ポイントに広がります。
OTAおよびサイトコントローラーの導入率

「国内OTA」は、『10室以上』の各区分で89.4~97.8%、『10室未満』でも82.1%です。「海外OTA」は40.2~95.6%で、前章の「自社Webサイト(多言語)」と同様に、客室規模による差が大きく表れています。
「サイトコントローラー」の導入率は、『10室以上』の各区分で85.7~89.0%となっており、規模区分による差は比較的小さくなっています。『10室未満』では67.4%で、「国内OTA」の82.1%を14.7ポイント下回っています。
PMSの導入率

「PMS」の導入率も、全体として客室規模が大きいほど高くなっています。『10室未満』では49.6%ですが、『10~29室』では70.6%となり、『50室以上』の各区分では8割を超えています。各規模区分において、「自社Web予約システム」とおおむね近い水準にあります。「サイトコントローラー」との比較では、『50室以上』ではほぼ近い水準にあるが、『49室以下』では規模が小さくなるにつれて導入率の差が開いています。
レベニューマネジメントシステムの導入率

「レベニューマネジメントシステム」の導入率は、『300室以上』で64.9%、『100~299室』で52.9%、『50~99室』で38.8%です。『10~49室』では約2割、『10室未満』では8.1%となっており、客室規模による差が大きく表れています。
データ分析活用ツールの導入率

「顧客分析ツール」は『100~299室』で20.6%ですが、それ以外の分析系ツールと規模区分では、導入率はおおむね15%未満です。販売・予約管理系ツールと比べると、データ分析・活用系ツールの導入率は全体として低い水準にあります。
# ホテルにおけるデジタルツール導入率(客室規模別)
観光庁「宿泊業におけるデジタルツールの導入・活用状況等の実態把握に係る調査」(2025年)の講演資料に掲載された数値をもとに、ホテル・宿泊施設のデジタルツール導入率を客室規模別に整理しました。
本データでは、自社Webサイト、OTA、サイトコントローラー、PMS、レベニューマネジメントシステム(RMS)、BIツールなどの導入率を比較できます。
## 客室規模別デジタルツール導入率
| カテゴリ | ツール | 300室以上 | 100~299室 | 50~99室 | 30~49室 | 10~29室 | 10室未満 |
|----------|----------|----------:|----------:|----------:|----------:|----------:|----------:|
| 販売チャネル | 自社Webサイト(日本語) | 100.0% | 90.7% | 90.8% | 84.9% | 81.5% | 72.6% |
| 販売チャネル | 自社Webサイト(多言語) | 86.7% | 73.2% | 58.4% | 53.2% | 41.7% | 26.1% |
| 予約・料金管理 | 自社Web予約システム | 93.4% | 82.4% | 79.8% | 72.3% | 69.9% | 52.9% |
| 販売チャネル | 国内OTA | 97.8% | 93.0% | 96.9% | 94.1% | 89.4% | 82.1% |
| 販売チャネル | 海外OTA | 95.6% | 85.6% | 76.3% | 67.0% | 56.6% | 40.2% |
| 予約・料金管理 | サイトコントローラー | 89.0% | 88.5% | 87.0% | 87.6% | 85.7% | 67.4% |
| 予約・料金管理 | PMS | 89.0% | 88.4% | 83.6% | 78.4% | 70.6% | 49.6% |
| 予約・料金管理 | レベニューマネジメントシステム(RMS) | 64.9% | 52.9% | 38.8% | 21.6% | 22.0% | 8.1% |
| データ分析・活用 | BIツール | 3.8% | 9.3% | 6.8% | 0.0% | 2.6% | 0.5% |
| データ分析・活用 | データ可視化ツール | 2.2% | 11.9% | 10.7% | 6.4% | 4.7% | 0.6% |
| データ分析・活用 | 需要予測システム | 12.8% | 13.5% | 6.2% | 4.3% | 2.7% | 0.0% |
| データ分析・活用 | 顧客分析ツール | 9.3% | 20.6% | 11.2% | 7.5% | 9.0% | 1.7% |
## データから読み取れる傾向
- 国内OTA、自社Webサイト(日本語)は全規模で高い導入率
- 海外OTAと多言語Webサイトは客室規模による差が大きい
- PMSとサイトコントローラーは広く普及している
- レベニューマネジメントシステム(RMS)は規模が大きいホテルほど導入率が高い
- BIツール、需要予測システム、顧客分析ツールなどの分析系ツールは全体的に導入率が低い
## 関連キーワード
ホテルDX、宿泊業DX、ホテルPMS、ホテルRMS、レベニューマネジメントシステム、サイトコントローラー、ホテルBIツール、ホテルデータ分析、ホテルデジタル化、ホテル経営、ホテル収益管理、Revenue Management
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出典:観光庁「宿泊業におけるデジタルツールの導入・活用状況等の実態把握に係る調査」(2025年、講演資料掲載値、N=995)をもとにeSURVEY作成。
当社の分析:規模別に見るデータ活用のフェーズ
ここまでは、講演資料に示された導入率の整理です。ここからは、数値から確認できる規模別の違いと、当社の解釈を分けて整理します。
今回のデータを規模別に見ると、「海外OTA」や「自社Webサイト(多言語)」、「レベニューマネジメントシステム」、「自社Web予約システム」、「PMS」では、客室規模が大きい区分ほど導入率が高い傾向が見られます。これに対し、「サイトコントローラー」は10室以上の各区分で85%を超えており、規模区分による差は比較的小さくなっています。
客室規模ごとの特徴は、次のとおりです。
規模別に見える違い
10室未満
「国内OTA」は82.1%、「自社Webサイト(日本語)」は72.6%です。「海外OTA」は40.2%、「自社Webサイト(多言語)」は26.1%で、国内向けと海外向けの販売対応に差があります。また、「自社Web予約システム」は52.9%、「サイトコントローラー」は67.4%で、予約受付や複数の販売経路を管理する仕組みにも導入率の違いが見られます。
ただし、現在の運営規模で必要な機能が満たされているためなのか、費用や人材、運用体制などの制約によるものなのかは、今回の集計結果だけでは判断できません。
10~49室
「サイトコントローラー」の導入率は85%前後となっています。
「海外OTA」の導入率は、『10~29室』の56.6%に対し、『30~49室』では67.0%となっており、二つの区分に差が見られます。一方、「レベニューマネジメントシステム」の導入率は、いずれも約2割にとどまっています。
50~99室
「PMS」の導入率は83.6%です。また、「レベニューマネジメントシステム」の導入率は、10~49室の約2割に対して38.8%となっています。
100室以上
「レベニューマネジメントシステム」の導入率は50%を超え、『300室以上』では64.9%に達します。
これに対し、「BI、データ可視化、需要予測、顧客分析」の各ツールは、『100室以上』の区分でも20.6%以下となっています。『100室以上』の施設でも、収益管理システムと、複数のデータを組み合わせて分析するツールとの間には、導入率に差が見られます。
宿泊施設におけるデジタル活用フレームワーク
ここまでは、客室規模による導入率の違いを見てきました。次に、同じツールを「何を実現するために導入するのか」という観点から整理します。以下の6つの領域は、現在の仕組みでは対応できない業務や判断が生じたときに、次に検討するツールを考えるための区分です。すべての施設が同じ順番で導入するとは限りません。
| 領域 | 目的 | 主なツール |
|---|---|---|
| 1 | 国内向けの予約受付基盤を整える | 自社Webサイト(日本語)、国内OTA |
| 2 | 予約受付と販売チャネルを管理する | サイトコントローラー、自社Web予約システム |
| 3 | 外国人旅行者への販売機会を広げる | 自社Webサイト(多言語)、海外OTA |
| 4 | 予約・客室・顧客情報を一元管理する | PMS |
| 5 | 需要や予約状況を踏まえて価格・販売を調整する | レベニューマネジメントシステム |
| 6 | 複数のデータを組み合わせて判断する | BI、データ可視化、需要予測、顧客分析 |
1
国内向けの予約受付基盤を整える
「自社Webサイト(日本語)」と「国内OTA」により、施設情報を発信し、予約を受け付ける段階です。まず販売機会を確保するための基盤にあたります。
2
予約受付と販売チャネルを管理する
自社サイトから直接予約を受け付けるために「自社Web予約システム」を導入し、OTAを含む複数の販売経路の在庫や料金を管理するために「サイトコントローラー」を利用します。販売経路が増え、手作業での在庫・料金管理が難しくなった場合には、こうした仕組みを検討する必要性が高まります。
3
外国人旅行者への販売機会を広げる
「自社Webサイトの多言語化」や「海外OTA」への掲載により、海外からの検索、比較、予約に対応します。国内向けの販売基盤だけでは接点を持ちにくい市場へ販売対象を広げる段階です。
4
予約・客室・顧客情報を一元管理する
「PMS」により、予約、客室、顧客など、施設運営に必要な情報をまとめて管理します。予約件数や客室数が増え、販売チャネルの管理だけでは日々の運営情報を扱いきれなくなった場合には、「PMS」の導入が選択肢になります。
5
需要や予約状況に応じて価格・販売量を調整する
「レベニューマネジメントシステム」により、需要予測や予約状況を確認しながら、価格や販売量を調整します。予約を受け付けて管理するだけでなく、将来の需要を踏まえて販売条件を変えたい場合に、導入を検討する段階です。
6
複数のデータを組み合わせて判断する
「BIツール、データ可視化ツール、需要予測システム、顧客分析ツール」などを利用し、予約、販売、顧客、市場のデータを横断して確認します。価格設定だけでなく、販売施策や顧客対応を含めて判断したい場合に検討する領域です。
この整理では、導入しているツールの数ではなく、自施設が現在どこまで対応できており、次に何を実現したいかを基準にします。
現行の仕組みで目的を満たせているのであれば、必ずしも次の領域へ進む必要はありません。反対に、手作業での管理が難しくなった、海外販売を始めたい、将来需要を価格に反映したいなど、現在の仕組みでは対応できない目的が生じた場合には、それが次のツールを検討する段階になります。
第1回で紹介したレベニューマネジメントは、需要や予約状況を踏まえて価格や販売量を調整する考え方で、前述の領域5にあたります。当社が「Forward Revenue Management」と呼ぶ方法では、これに周辺施設の販売価格などの市場データを加えて価格判断を行うため、領域5に加えて領域6の一部にも関わります。
まとめ
今回の調査では、施設規模によって導入率に差があるツールと、規模を問わず導入率が低いツールが確認できました。ただし、導入率だけで各施設のデジタル化の進み具合を判断することはできません。自施設で現在対応できていることと、今後実現したいことを分けて考えると、次に検討する機能やツールを整理しやすくなります。
国内向けの予約受付基盤に関わるツールは、多くの規模区分で導入率が高くなっています。一方、海外への販売対応、収益管理、データ分析・活用に関わるツールは、種類や施設規模によって導入率に差があります。
こうした領域を検討する場合も、すぐに専用システムの導入から始める必要はありません。市場価格、予約状況、自施設の実績など、現在取得できているデータを確認し、価格判断や需要把握に使えるかを整理する方法があります。
当社では、周辺施設の販売価格などの市場データと自施設の予約状況を価格判断に活用するツールとして、「PriceAnalyzer」を提供しています。「PriceAnalyzer」は、領域5の「需要や予約状況に応じて価格・販売量を調整する」ための判断を支援します。また、領域6に関連して、競合施設の価格データと自施設の予約状況を組み合わせた分析や、生成AIによる分析に利用するためのデータ提供にも対応しています。
PriceAnalyzerとForward Revenue Managementの詳細は、以下のページで紹介しています。
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