カスタマージャーニー分析をホテルDXにつなげる方法|旅前・旅中・旅後で変わる顧客接点の構造【顧客接点設計 第1回】
2026/10/01
はじめに
IT活用事例集分析の第2回「施策と業務を可視化するホテルDX整理フレームワーク」や第3回「顧客体験起点型ホテルDXフレームワークで見える5つの課題」では、顧客接点、ホテルの役割、担当業務、利用チャネルを一つの表に整理しました。
本記事では、これらの表の前提となる顧客の情報行動に着目します。ホテルを探し始めてから帰宅後まで、顧客がどこで情報を探し、ホテル側が何を整えるべきかを、旅前、旅中、チェックアウト前後、帰宅後の4つに分けて説明します。
カスタマージャーニー分析とは
カスタマージャーニー分析とは、顧客が商品やサービスを知ってから利用後までに、どのような行動を取り、何を感じ、どの接点を利用するのかを整理する方法です。顧客が困る場面や、企業が改善すべき点を見つけるために使います。
カスタマージャーニー分析には、大きく二つの方法があります。一つは、顧客調査やアクセスログから実際の行動を整理する方法です。もう一つは、データが少ない段階で架空の顧客像(ペルソナ)を設定し、その行動を仮説として描く方法です。例えば「48歳男性、年収780万円、結婚20年目」といった人物像を設定し、その人物がSNSで宿を見つけ、予約し、宿泊し、アンケートに答えるまでの行動や感情を一本のストーリーとして描く、という方法です。
そして、認知、検討、予約、利用、宿泊後などの段階に沿って、顧客の行動や感情、接点を可視化したものが「カスタマージャーニーマップ」です。作成したマップは、各段階で顧客がどのような体験をし、どの情報や接点を必要としているかを検討するために用います。
ペルソナを使ったカスタマージャーニー分析は、なぜDXにつながりにくいのか
ペルソナを使って物語を描く方法は、SNSで発信するテーマや、狙いたい客層向けの企画を考えるときに役立ちます。ただし、物語は仮説であり、課題の発生件数や原因までは分かりません。そのため、物語の中で見つかった課題が実際にも起きているのかをデータで確かめ、どの接点や業務に原因があるのかを調べなければ、DXや業務改善の施策にはつながりにくいです。
例えば、「客室の手違い」が課題として挙げられても、それが多くの宿泊客に共通する問題なのか、設定したペルソナの物語で起きただけなのかは判断できません。クレーム件数や予約ミスの発生率を確認し、予約画面の説明、予約データの連携、確認作業のどこに原因があるのかを調べます。
このように、ペルソナの物語で見つかった課題を改善につなげるには、顧客の体験を順に分けて考えます。まず、顧客がどのような状況で、何を必要としていたのかを整理します。次に、どの接点で情報を探し、そこにどのような内容を用意するかを考えます。最後に、その内容を作成・更新する業務と、運用に使うツールやデータを決めます。ここまで整理すると、必要なDX投資を検討しやすくなります。
この考え方を具体的な業務に落とし込むため、当社ではこれまでに以下の記事を公開してきました。
【IT活用事例集分析シリーズ】
ここからは、同じ接点でも旅行の段階によって役割や使われ方がどう変わるのかを見ていきます。
フェーズによって、接点の構造と使われ方は変わる
顧客の行動を「認知、比較、予約」という一本の流れだけで捉えると、実際の情報行動とのずれが生じます。SNS、OTA、公式サイト、LINE、館内掲示、フロントなどの接点は、旅行の段階によって役割や使われ方が変わるためです。旅前は複数の情報源を比べ、旅中はその場の状況に応じて情報を探します。チェックアウト前後は登録や回答をするかどうかで分かれ、帰宅後はホテルとの関係を続ける段階です。以下では、それぞれの特徴とホテル側の確認事項を、4つの型に分けて説明します。
全体像を先に示すと、次のようになります。
| フェーズ | 接点構造の型 | 顧客の行動・きっかけ | ホテル側の確認点 |
|---|---|---|---|
| 旅前 | 蜘蛛の巣型 | 複数の情報源を比較する | 複数チャネルの情報に食い違いがないか |
| 旅中 | 蜘蛛の巣型+リアル介入型 | 天候や混雑に応じて短時間で判断する | 必要な情報にすぐ届くか |
| 旅後①(チェックアウト前後) | 分岐型 | 登録・回答をする/しない | 登録・回答のどこで離脱しているか |
| 旅後②(帰宅後) | 層が増えるモデル | ホテルから直接連絡できる | 施設の規模に合った再訪の仕組みがあるか |
表のとおり、各フェーズではホテル側の確認点が異なります。旅前は複数チャネルの情報に食い違いがないか、旅中は必要な情報にすぐ届くかを確認します。チェックアウト前後は登録や回答のどこで離脱しているか、帰宅後は施設の規模に合った再訪の仕組みがあるかを確認します。
以下、それぞれを順に見ていきます。
旅前:蜘蛛の巣型
蜘蛛の巣型とは、顧客が複数の情報源を行き来しながら、宿泊先を比較して決める動きです。

旅の計画段階では、顧客はSNS、Google、OTA、公式サイト、口コミといった複数のメディアを、直線的にではなく行ったり来たりしながら比較します。SNSで見つけた宿をGoogleで検索し、OTAで価格を見て、公式サイトで会員価格を確認し、また口コミに戻る、といった具合です。また紹介、知人の口コミ、旅行会社、テレビ・雑誌なども情報源としています。
これは「認知、比較、予約」が一直線に進む流れというより、複数の糸が絡み合った蜘蛛の巣に近い構造です。
顧客がどの順で調べても迷わないよう、各チャネルの内容をそろえます。例えば、OTAと公式サイトで宿泊プランの条件が違わないか、Googleの営業時間が最新か、SNSで紹介したサービスが今も使えるかを確認します。旅前では、導線を一つに決めるより、古い情報や食い違いをなくすことが大切です。
旅中:リアル介入型
リアル介入型とは、天候や混雑など、その場で起きたことによって必要な情報が変わる動きです。

宿泊中も、顧客は複数の接点から情報を探します。ただし旅前とは異なり、滞在場所、天候、混雑など、その場の状況によって必要な情報が変わります。
例えば「雨が降ってきた」という状況が発生すると、顧客のニーズは「屋内で楽しめる場所を知りたい」に変わります。この情報を、フロントで聞いたり、館内パンフレットや客室の案内冊子を見たり、Googleで検索したり、ホテルの公式サイトを確認したり、LINEで問い合わせたりと、複数の接点から取得する可能性があります。
ここで重要なのは、旅中の接点選びが、属性(年齢や性別)だけでなく、その場で発生した状況によって大きく左右される点です。また、旅前に比べて探索や比較に使える時間が短く、実際に利用する接点も絞られやすくなります。
そのため、同じ「雨の日の過ごし方」という情報でも、顧客が実際に利用する可能性の高い接点に必要な情報がなければ、情報にたどり着けないことがあります。例えば、フロントには情報があるがWebにはない、パンフレットには掲載されているが多言語対応していない、といった接点ごとの欠落です。
旅中では、その場の状況に応じて変わるニーズに対し、顧客が利用しやすい接点に必要な情報が配置されているか確認します。あわせて、各接点にどの情報を用意し、誰が更新・提供するのかを業務として決めます。
旅後①(チェックアウト前後):分岐型
分岐型とは、会員登録やアンケート回答、口コミ投稿などを、顧客が行うか行わないかに分かれる動きです。

旅前や旅中の情報探索とは異なり、案内の到達、開封、登録・回答の完了という段階ごとに、どこで離脱したかを確認しやすい特徴があります。例えば、案内は開かれているのに回答が少ない場合は、設問数や入力方法を見直します。
旅後②(帰宅後):層が増えるモデル
帰宅後も、顧客はGoogle、OTA、口コミ、公式サイトなどを使います。また、メールやLINEを登録した顧客には、ホテルから季節の案内や宿泊プランを直接送れます。つまり、顧客が公開情報を探す接点に、ホテルから直接連絡する接点が加わります。本記事では、この状態を「層が増えるモデル」と呼びます。

ホテルから直接連絡できる接点を持つ意味:再訪時の予約につなげる
ここからは、ホテルが顧客と直接つながる接点を持つことが、再訪や予約経路にどう関わるのかを事例から確認します。
Global Hotel Alliance(GHA)のクリストファー・ハートリーCEOは、東急ホテルズのGHA加盟に関する取材の中で、「通常、ロイヤリティプログラムに参加するホテルゲストの約45%がOTA経由の顧客で、そのコストは18〜20%に上る」と説明しています。その上で、リピート時については、「リピート時にOTA経由で予約する比率はわずか1〜2%に下がる。その予約コストも半分以下になる」としています(ビジネスインサイダージャパンの取材記事より)。
星野リゾートも、自社ホームページでの直接予約への注力が新型コロナ後の早期回復要因の一つになったと説明しており、2026年時点で予約の6割超を自社サイトで獲得しているといいます(星野リゾート決算説明資料2026年4月期より)。
※P16では、星野リゾートについて、国内客・インバウンド客ともに自社予約比率が6割を超えていると説明されています。
実現手段:個別ホテルにとっての現実的な一歩
上記のようなチェーン規模のポイント制度やGHA型の提携は、個別のホテルがそのまま導入できる施策ではありません。PMSやCRMを使い、過去の来訪時期に合わせて別の季節の宿泊を提案する方法もありますが、そのためにはデータを継続して管理する仕組みが必要です。こうした運用が難しい施設では、LINE公式アカウントなどを使って顧客との接点を保つ方法も選択肢になります。かつて年賀状や暑中見舞いが担っていた役割を、デジタルに置き換える考え方です。
「○○が旬の季節になりましたので、夕食でご提供しています」「近隣施設ではクリスマスのライトアップを開始しています。朝晩冷え込むため暖かい格好でお越しください」といった内容が該当します。
型を意識することが、DXの業務設計の出発点になる
ホテルDXを検討する際は、次の順で考えることをお勧めします。まず顧客の状況を確認し、必要な情報と顧客が使う接点を整理します。その上で、用意する内容、更新する担当、使うツールやデータを決めます。
この順で考えるのは、顧客が必要とする情報は大きく変わらなくても、SNSなどの媒体や機能は数年で変わることがあるからです。特定のツールや手順を中心に設計すると、ツールが変わるたびに見直しが必要になります。例えば、Instagramから考え始めるのではなく、「顧客がホテルを見つけ、情報を共有する場」として必要な役割を先に決めます。その後で、顧客層や運用体制に合うツールを選びます。
旅後②では、継続的な情報提供も必要になる
旅前・旅中・旅後①では、「どの接点に、どの情報を用意するか」が設計の中心です。旅後②でメールやLINEなどを継続的に活用する場合は、ホテルから継続して情報を届け、再訪につなげるための運用も考える必要があります。大規模な会員制度だけでなく、施設の規模や運用体制に合った方法を選ぶことが重要です。
本記事では、旅前・旅中・旅後の顧客接点を4つの型に分けました。自施設の状況をフェーズごとに確認し、旅前は各サイトの情報に食い違いがないか、旅中は必要な情報にすぐ届くか、チェックアウト前後は登録や回答のどこで離脱しているか、帰宅後は再訪につながる連絡手段があるかを整理します。課題が見つかったフェーズから、必要な情報、担当業務、使用するツールを決めて改善します。
このように顧客接点を整理すると、宿泊体験の改善だけでなく、再訪を促すために必要な接点も検討しやすくなります。当社では、将来の需要を見据えて顧客接点を設計する考え方を、Forward RMを構成する取り組みの一つと捉えています。
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